ユタカ2イキルオテツダイ

ほんの少しずつ、ゆたかになってゆきましょう

3話 体育教師摘発

f:id:chicken-heartdesu:20180709173618p:plain 3月13日

それから1ヶ月ほどたった3月のことです。

突然、金ちゃんが、早退して帰ってきました。

 

「どうしたの」

 

「帰ってきた。今日犬山先生の授業で、腹が痛かったから、

早退しようと思って、体育館に行ったら『単位いらないんだな』って言われて。

職員室に担任がいなかったから、違う先生に言って帰ってきた」

 

そこまで言うと、金ちゃんはトイレに駆け込んでしまいました。

私は金ちゃんのただならぬ様子に事の重大さを感じました。

そして、さっきまで雑多なやらなくてはならないことで頭はフル回転していたのに、

急ブレーキをかけて停止しなければならい、そんな感じでした。

私はうずくまってしまいました。初めは〈面倒くさいな〉と思ったのです。自分のことだけでも手一杯なのです。

しかし何とかしなければなりません。私がやらなくてはならないのです。

そうして徐々に〈これはチャンスだ、金ちゃんに親の愛情を示すのだ〉そう思い始めたのです。

それに、以前学校になんの文句も言わなかったことで、金ちゃんは裏切られたように感じていたはずです。

私はまるで、一気にハンドルをきってアクセルを踏んだようでした。心拍数も上がっていきます。

しかし、相手は学校という大きな組織の中にいる教師なのです。

ただ乗り込んでいって感情的に言ってもちゃんと聞いてもらえないでしょう。

…戦略がいる。私は、最近マンガでを読んだ『三国志』を思い出していました。

それで学んだことが活かせるはずです。

〔「大義」が無ければ、勝てない。「私怨」では、やがては敗れる〕

そこで繰り広げられていた戦では

「みんなが納得する理由」が絶対に必要でした。大義名分というやつです。「自分の恨み」だけでは、人を動かせません。そして勝ち負けは周りの人が決めるのです。

金ちゃんの話だけでは「みんなが納得する理由」として弱いのです。

私は、さーさんの話と工藤君のことを思い出していました。

金ちゃんがトイレから出てきて、うずくまっている私を見て言いました。

 

「どうしたの」

 

親に心配をかけてしまったと、優しい気持ちでいたのでしょう。心配そうにしています。

それに逃げ帰ってきた自分を見て、ガッカリしているのではないかと、恐れていたのです。

私は明るく言いました。

 

「あの野郎とうとう尻尾出しやがったな、ただじゃすまねぇぞ」

 

金ちゃんは私の勝ち気な言葉を聞いて、ほっとした様子でした。

 

「金ちゃん、あなたは言葉が足りないから、今まで犬山先生にやられたことを文章で書いて。

いつ、どこで、何があったのか」

 

私の今までの経験が生かされる時が来たのです。

金ちゃんの父親は、機嫌の悪いとき、母親(私)に当たり散らしていました。

私は、法律に訴えるなら、いつなにがあったのかを、記録することが重要であることを調べて知っていたのです。

それに、いじめっ子(今回は教師ですが) は「やっていない」と言うに決まってると知っていました。

そしてやったことは、小さく小さく言うってことも。

<二度としないようにぎゅうぎゅうに締め上げなくてはいけない、それが本人のためでもあるのだ>

私は今度は頭の中で、経営コンサルタント石原明、の話を思い出していました。

新社会人が、失敗して、ガラス製のテーブルを割ってしまった。

そこで石原氏が弁償させたところ、周りは「そこまでしなくていいんじゃないか」と言った。

しかし石原氏は「二度としないようにぎゅうぎゅうに締め上げてあげるのが本人のため」と言ったのです。

金ちゃんは、パソコンを出してきて、打ち始めていました。

 

「こうして書いてみると、大したことないなぁ」

 

「大げさに書いて、控え目に書いたって伝わらないから」

 

しばらくすると、金ちゃんが書き終えました。

私はそれを読んで〈なんだこれは〉と思いました。

私は、担任に電話でわけを話し、次の日、面接をすることにしました。