ユタカ2イキルオテツダイ

ほんの少しずつ、ゆたかになってゆきましょう

4話 担任と面接<嘆願書><手紙>

f:id:chicken-heartdesu:20180716174509j:plain

3月15日

金ちゃん早退の次の日です。

その日も委員会がありました。私は工藤さんに金ちゃんの書いた「嘆願書」を読んでもらいました。

金ちゃんは、工藤君の件や、友達に聞いた犬山先生の話なんかを、書き入れていたのです。

工藤さんは一通り読んだ後こう言いました。

 

「これなんですけど、事実と少し違うので、削除してもらっていいですか」

 

私はどきっとしました。工藤さんは続けて言いました。

 

「あれから、しばらくは収まってたんだけど、また(いじめが) 始まってるみたいで。

今は競技が変わっていて違う先生に教わっているんで大丈夫なんです。

うちはもう、いいので。

あの、特定されるような話はしないでもらいたいんです。

ただ、うちの部活の部長もやられているって話を、1ヶ月前くらいに聞いたのよ。

代々やられてるって」

 

「そうなんですか」

 

「話が進むようなら、協力したいので」

 

「わかりました。ありがとうございます」

 

私は言って、担任と待ち合わせ場所の図書室に行きましたが、

心細くなって、本棚の間をぐるぐる歩き回っていました。

去年の6月に工藤君が犬山先生のことで精神的にまいっている、

と聞いていました。

その後工藤君のお母さんは勇気を出して、学校に電話をしたのです。

犬山先生本人ではなく、担任か、学年主任に話したようです。

「弁償してもらう、と言われたがどうなんでしょう」と聞いたところ

「弁償なんてとんでもない、それよりもケガは大丈夫ですか」

と言われたとのことでした。

それを聞いて力を得たのでしょう。

「実はそのことがあってから、

授業中、友だちが後ろを向いて話し掛けてきたのにもかかわらず、

『またお前か』と注意されて、

精神的にまいっている」と伝えていたのです。

その後どうなったのか、と聞いたところ(犬山先生の嫌がらせは)『収まった』ということで、ほっとしていたのです。

それなのに、また始まっていたなんて、言いようのない苦しさです。

絶望感や屈辱感がわいてきます。

そんな思いをするくらいなら、

言わない方がましだ、と思うのも無理はありません。

しかし、私はそのエピソードが強い説得力になると思っていましたので、特定されないように話すとなると。

修正液で、その部分を消しながら協力者を失ったように、

少し裏切られたようにさえ感じていました。

担任は時間通りに来ました。いつもたくさんの書類を抱えて忙しくしています。

簡単にあいさつをして、

空いている教室で金ちゃんの嘆願書を読んでもらいました。

 

 

 

まず、私の現状について説明させていただきます。私は、一年生の頃には休み、遅刻は両手で数えるほどもなかったのですが、二年生になって休み、遅刻が劇的に多くなりました。毎朝学校に行こうとすると体調不良、腹痛などに悩まされ、その後一学期前期、後期、二学期前期、後期と、どんどんと休み、遅刻が増えていきました。それは、一年生の後期の終りの体育の時間に犬山先生に受けた心の傷が原因です。ちょうど二年生に入るタイミングだったので、最初は友達関係やその他の要因を疑いましたが、それらはうまくいっているのにもかかわらず休みが減らない。そのままどんどんと時間が過ぎ去りますが、原因はわかりませんでした。ですが最近、体育が犬山先生の授業に替わって以来体育の授業の日は必ず体調が悪くなり休んでいることに気が付きました。私は、一年生に心の傷を負ってから、犬山先生の些細な動作、授業を受けるときも、廊下で会う時でさえ、それに心の傷が刺激され、犬山先生に対する恐怖感、嫌悪感が増幅されていき、今ではもう会うことですら動悸、腹痛がするようになっていました。

 原因となった一年生の件について、詳しく書きたいと思います。一年生の後期5時間目の体育の授業のときです。ほかの生徒が早めに集合場所に来て授業の準備をしているところでした。昼休みに同じテニス部の友達とテニスをしていて気づかなかったのですが、私たちが戻った時にはすでに準備が終わっていました。そのことについて犬山先生に呼び出され怒られました。そのことについては大変反省し、それ以来二度目はないよう尽力しました。しかし、個人の問題であるにもかかわらず、遅れたことをテニス部全体のせいにされ、昼休みのテニスコート使用禁止が言い渡されました。しかも、禁止にされたのは原因とされる男子テニス部だけでなく、女子硬式テニス部もソフトテニス部もなぜか禁止にされました。何の責任もなく昼休みテニスコート使用禁止にされた女子硬式テニス部、ソフトテニス部への申し訳なさ、先生の理不尽さに対抗できなかった不甲斐なさにこれまでに経験したことがないほどの心苦しさ、無力感、絶望感がこみ上げてきましたが、原因を作った私たちは結局何も言えませんでした。

 また、この件で怒られたあとテニスの授業で、ほかの生徒をほめるときに「きみはすごいね、あの不快な奴らと違って」と発言されました。同じ授業のときにもう一個。今までと違いいきなり、テニス部以外のペアを作ってくださいと言われ、もちろんテニス部の友達と組んでいた私たちは立ち往生してしまいました。そして私たち以外のペアがすべて決まりました。残された私たち二人を見て先生がひとこと「どうなるかなと思って見ていたけど、やっぱり君たちだめだったね」

このようなことが果たして教育の場で行われていいものか、当時の私はその受けた衝撃に、その場で立ち尽くさざるを得ませんでした。このような事例が、あと数件私の身には起こっています。

 これらの行為はほかの先生方の目の届かないところで日常的に起きています。また、その原因は生徒のミスが発端であるため言い返せないということがほとんどです。私以外にも被害を受けている人がたくさんいると思うので今回はこのような形で報告させていただきました。

 最後に、私がこの嘆願書を書いた理由を書きます。私は、3月13日に今日こそは、体育の授業に出ようと思い、学校に来ましたが、やはり腹痛が激しく出られそうにありませんでした。しかし、せっかく学校に来たのだから、犬山先生にひとこと断りをいれてから早退しようと、体育館に行ったところ、開口一番、犬山先生に「体育の単位は取らなくていいんだな」と宣告され、この件が自分では解決できないことにようやく気づくことができ、学校側に判断をゆだねようと思い、書きました。

私としてはもうこれ以上犬山先生の授業を受けることは無理だと思います。顔を見るだけでも、学校に行くだけでも苦痛で仕方がないです。

犬山先生の授業を受けることはできません。ですが、大好きなこの港北高校をどうにか卒業することが希望です。もう自分の力だけではどうにもなりません。どうかこの件について、力を貸してくださるようお願い申し上げます。

 

二年○組○番 丸山 金太郎 

 

 

 

顔を上げたとき、担任が金ちゃんの気持ちをそのまま受け取ったことが分かりました。

 

「まず始めに思ったのは、文章うまいなって」

 

「そうなんですよ」

 

私は思わず言って、しまったと思いました。大げさに書くように言ったことがばれると思ったのです。

しかし担任は気を取り直して

 

「これは。…いろいろ聞いています。港北高校はなんでこんなにボタンの掛け違いが多いのかと思っていたんです。

信頼関係。よくいうのが、例えば隣の住人の物音が親しい関係ならば気にならないものものが、

仲が悪いと小さな音さえ騒音に感じるというものです」

 

犬山先生のうわさは、先生方の耳にも入っているということでしょうか。

私は考えていました。

〈しかし、本当に犬山先生のことだけが、学校に行きたくない理由の全て、

なのだろうか。

それに、犬山先生は、これからどうなってしまうのだろう。

私に、人を訴える資格があるのだろうか〉そう思うと、戦う意欲がなくなっていくようでした。

 

「私は、今まで生きて来て犯罪を犯したなら、わかりやすいですが、それに至らないような…」

 

と言いかけると担任は

 

「私は悪い人間です」

 

と言いました。私は何を言い出すのかと思いました。

 

「教師は役者なんです。私もネクタイを取ったら変わります。

子供を信じてあげてください。私も、同僚でどうしようもないのがいて、突き上げたことありますよ」

 

と言いました。

私は緊張が少し緩んだのでしょう。金ちゃんが担任ともうまくいってなかったことを思い出しました。

 

「私なりに、何で学校に行けないのか、割り切っていたつもりだったんですが、こんな」

 

と言うと担任は

 

「私も、他の先生に、(休みが多いので) これでは成績がつけられない、と私が責められて」

 

と言いました。

<これは、味方だ>と思いました。

しかし、帰りまぎわに胸を張って

 

「心は弱者に寄り添います。ですが私の信条で、中立を守ろうと思います」

 

と言いました。

私は、さっと身をかわされたように感じました。そして金ちゃんが「たぬき」と言っていたのを思い出しました。

やはりここでも、少し裏切られたような気持になりました。

 

家に帰ると、がぶがぶ水を飲んで椅子に座り込んでしまいました。うんと緊張していたのです。

そして今日の事を考えていました。

担任が私の背中を強く押しているようでした。それに、工藤さんの言っていた、事実とは違った話をすることは、後々うたがわれることになります。

後からよく考えると、私に最良のアドバイスをしてくれていたのです。

一人で戦うことに変わりはありませんでしたが、後ろから風が吹いているような気がしました。

「成功する人は世界を相手にひとりで戦う気持ちのあるひと」と深呼吸をしました。

 

 

 

 

次の日、教頭から電話がありました。

これほど卑屈なまでに下手に出るのだ、と驚きました。

私はクレーマーという人たちが、なにを求めているのか、わかるような気がしました。「優越感」私はそれに浸りたいわけではありません。

 

「どうしたらいいのか言って下さい」

 

と言うので

 

「顔も見たくないと言ってるのですから、先生が出てこなければいいんじゃないですか」

 

と言いました。

 

「それは、難しい、担任も持ってますし」

 

「教育委員会の指示に従って欲しいんです」

 

私は言いました。とにかく強気でいくしかありません。

そして、副校長が出張から帰るのを待って、面接をすることになりました。

私は、パソコンで調べて「神奈川県いじめ防止基本方針」

神奈川県いじめ防止基本方針 - 神奈川県ホームページ

というものがあることを知っていました。

よく出来た法律です。

これで話は進めやすくなりました。

しかし、法律を持ち出したからと言って、すぐ解決出来るなんて思っていません。

それは(旦那とのやりとりの中で) 経験していました。

 

 

 

副校長と教頭と面接をする日が来ました。その日、私は朝までかかって手紙を書きました。

会って話をすることよりも、考えをまとめたものを読んでもらったほうが話が早いと思ったからです。

それに〈犬山先生がこれ以上悪いことを出来ないように、先にやりそうなことを書いておけばいいのだ〉と思ったのです。

学校側はきっと、何もしない、とネットなどで調べて、知っていました。そうならば少しでも有利に事を運びたいと考えたのです。

私は嫌われ者になる決意をしました。記名をすると覚悟が決まったようでした。

 

 

 

港北高校関係者の皆様へ

 

いつもお世話になっております。今回の一件が終了するときには、港北高校に関わる方々が、さわやかな気持ちになることを望んでいます。

 この件は、国の基本方針「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」

http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2018/08/20/1400030_009.pdf#search=%27%E3%81%84%E3%81%98%E3%82%81%E9%87%8D%E5%A4%A7%E4%BA%8B%E6%85%8B%E3%82%AC%E3%82%A4%E3%83%89%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%B3%27

による教育委員会の対応が適切ではないかと思いました。その理由の一つに嘆願書を読んだ港北高校のある保護者の話があります。

「自分の子供も犬山先生にいじめられている、だが、子供は仕方がないと言っている。私もこの一件に協力したいが、この話で子供が特定され、いじめがひどくなることを恐れている。」他にも犬山先生のエピソードをいくつか聞きましたが、対象が多岐にわたることに驚きました。個人だけではなく、集団にも被害が及んでいます。素人がきいていても何か根深いものを感じずにはいられませんでした。

港北高校の先生方と接していますと、丁寧で親切な態度が見えてきます。生徒たちも優しく、素直、真面目な印象です。そこにつけ込むと言いますと言葉は悪いかもしれませんが、自分の立場を利用し、狡猾、巧妙に、憂さを晴らすことを目的として行われていると思わざるを得ません。

犬山先生がそうだというわけではありませんが、横領などをする人間は、要領がよく、ばれないために真摯に仕事をする人が多い、という話を思い出しました。どうか、表面的なことなどに惑わされずに事実を明らかにしていただきたいと思っています。できれば、いじめ心理、犯罪心理の専門家の方々の支援をお願いいたします。

調査方法はおまかせします、嘆願書とアンケートを用いて調査していただいてもかまいません。今回のことで、声をあげられない生徒の心が少しでも軽くなり、少しでも明るくなれば幸いです。そして、以下が我が子の想いです。

「港北高校の一生徒として私が感じることは、生徒の犬山先生に対する不信感が、それとは関係のないすべての先生、学校に向けられるようになってしまっているということです。行き場のない怒りが、先生、学校への不信感として噴出し、港北高校に対して否定的な意見を持つ生徒が、生徒の中にいると強く実感します。今回の件が解決されることにより、生徒の学校に対する信頼が少しでも回復するよう願っています。」

 

一保護者の意見ですので参考にしていただき、皆様のお考えを持って進めていただければと思っています。

 

 

 

2018.3.20    丸山 花子

 

 

 

朝、金ちゃんは起きて私が書いた手紙を読むと

 

「ここまでやってくれて…」

 

と感動していました。

私が中立を捨てて、完全に金ちゃん寄りに立っていることがわかったからです。

そして、金ちゃんの思いを書き入れて、完成させました。

私は何日もよく眠れませんでした。それに朝起きたとき、体か固いのです。

しかし、金ちゃんのその言葉を聞いてうれしく、報われたように思いました。

 

担任からの電話がありました。犬山先生が「単位は取らなくていいんだな」ではなく、「点数がつけられない」と言ったと聞きました。

子供ですから、教師の一言一句を正確に覚えているのかと聞かれて、自信をもって答えることは難しいと思います。

しかし他の生徒も「単位はいらないんだな」と言われ恐かった、という話を聞きました。

生徒に言うことを聞かせる言葉として、よく使っていたのではないかと思います。

 

「嘆願書」と「手紙」はよかったと思います。後々、私と、金ちゃんの代わりに働いてくれることになったからです。