ユタカ2イキルオテツダイ

ほんの少しずつ、ゆたかになってゆきましょう

7話 校長と面接

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4月25日

校長は「着任から(面接まで)時間が経ってしまったことは、担任が今はその時期ではないということだったのですが、よろしかったでしょうか」と言いました。

 

「嘆願書を読ませてもらいました。今日も学校に来れていないという事ですが。天候が悪くて、あたしも学校に来たくないです」

 

校長の様子から、副校長がどのようにこの話を伝えていたのか、分かるような気がしました。「気持ちの優しい子がきつく言われたことが原因で、悪く思い込んでしまっている」。

 

「私は教員に伝えることがあります。我々教師は通りすがりの人間であるから、自分の意見を押し付けないようにと指導していくつもりです云々」

 

一通り、校長の言うことを聞いて、私は話し始めました。

 

「うちの子の弱いところもあると思います。

手紙にも書いたのですが、なぜ学校に来れないのか。色々調べてみますと「いじめ」ということになるのではないか。

それをコップに毒を一滴一滴たらすような感じと表現する人もいます。少しずつエネルギーが奪われると表現する人もいます」

 

副校長が「だからぁ」と言いたそうに体をのけぞらせました。私は副校長の方にやや、顔を向けながら続けました。

 

「文部科学省が、「いじめ防止」というものをこれだけ打ち出しているには、国民の皆さんの関心がそれだけ高いということになるのではないでしょうか。

教育の現場でも、昔は良かったものが今はだめだ、ということがあると思います。

そのような、時代の流れの中にいるのかな、と思っています」

 

校長は、顔つきが変わりました。

 

「すみません、手紙をまだ読んでいません。いじめ、という考えは私の頭にもありませんでした」

 

「読まなくてもいいですよ。高揚して書いてますから」

 

「どうしたらいいのか、言ってください」

 

「先生、それは私が教えてほしい。子供は顔を見たくない、と言っています。

ただ、いじめ、というものをどうやって終わらせるのか調べてみますと

「理解と深い謝罪」とありました」

 

「…」

 

「子供には、他に色々な選択肢があるよと言っていますが『もう少し、頑張りたい』と言うことですので」

 

「それは、そうですよ」

 

「他の、保護者も訴えたいことがあるということで、教育委員会に今週中に電話をすると言っていますので校長先生の方にも連絡が行くと思います。

保護者の中には、マスコミに言えば早いと言っている人もいるとかで、しないと思いますが。

変わってくれればいい(犬山先生の態度)、と思っているのだと思いますが。

うちの子がもし、辞めるようなことになるとそういった人達がどう思うのだろうか、ということも考えます」

 

期待していなかった反応が校長に見られました。話が出来そうだと思いました。

こうして、校長と初めての面接は終わりました。

 

佐藤さんが、次の日、坂本さんがまた次の日に「波状作戦」(坂本さんの作戦名)で教育委員会に電話をするそうです。

LINEで「校長は、言い方の指導をすると言っている。犬山先生は悪意がある、ことを伝えるのは難しかった」と坂本さんに伝えました。

「言い方ってもんじゃないでしょ」と坂本さんは怒りをあらわにしていました。

 

 

 4月26日

校長から電話がありました。遠足の日でしたが、金ちゃんは家にいました。 

 

「お母さんの書かれた手紙を読みました。本当に、申し訳ないことをしました。今日も金ちゃんがどうしているかな、と辛い思いをしているんだろうと。

私も傷つきながら生きている人間です」

 

校長が、心底から言っているように感じました。

 

「校長先生のせいではないですから」

 

「いえ、やはり学校に責任があります。金ちゃんが私が謝りに会いに行ってもいいんですが」

 

「いいえ、それは大丈夫です。先生みたいな素敵な方に出会えてよかったです」

 

校長が自分をいい人間に見せようとして言っているのではない、と感じました。

傷ついている金ちゃんのことを考えて話をしてくれていました。

校長の心の状態をじっと集中して見ていますと光が見えるようでした。

電話を切って、

金ちゃんに話をすると「私も傷つきながら生きている」という所に特に心を動かされた様子でした。

その時は少しずつ回復してゴールデンウイーク明けくらいには、金ちゃんが学校に行けるようになるのではと、期待もしていました。

そう、休みはもう1カ月半にもなってしまうのですから。