5月1日
数日後、坂本さんは、学校の学級懇談会の後に校長に呼ばれて犬山先生から受けた行為の話をしました。
「こうして、昔の出来事で出てきたのは、第2、第3の被害者を出さないためです。子供も、ちゃんと詳しく話してと言っても
『思い出したくない、トラウマになっている。自分は周りに発散できたから、そうでなければ、俺も学校に行けなくなっていた』と言っている」
すると校長は、「子供の将来が大事。教師なんか飛ばせばいいのですから」と話していたそうです。
その後、校長と私は2度目の面談です。
校長は「これで2回目です」と言いました。校長は、こういったことに慣れていて、何回かでどうなる、という経験があるのではないかと、思ってしまいました。
それともただ、記憶しておこうと思っただけかもしれません。
校長は犬山先生の事を教育委員会の人事に「長いんじゃない(港北高校に)外の空気を吸った方がいいんじゃないの。なんで別れさせなかったのか。二人は離した方がよかった」と言って来たそうです。
「ちゃんと、言ったんですか (初めの面接のときに)。教師は他に行けばいい、生徒はそういうわけにいきません」
まるで私に責任があるかのように聞こえました。
「手紙の最後に、『皆さんのお考えで進めてください』と書きました。
すぐ行けるようになると思っていました。先生、先生は教師を指導するお立場だと思います。
犬山先生はまだお若いですし、私は逆にもし首になるようなことになったら、と考えてしまいました。ないとは思いますが。
先生、私から言えない」
「辞令は、2月に決まります。金ちゃんからの訴えは…3月です。金ちゃんは行けるんですね。言ってください、私はやりますよ」
「本人は行けると言っています。今までやると言った事はやりますので」
「では、来れるんですね。信じてますよ」
そんな会話がありました。犬山先生を異動させるかなんて、そんなことを聞かれても私にはどうしたらいいのか分かりません。
どこかで、「異動させますか」ときかれたときに私はうなずきましたが、
校長は「きっ」とした顔をして、やはりそれはできませんと顔で言っているようでした。
<本当にどうしたらいいんだろう> 、誰も答えを知りませんでした。
机の上に4冊の本が置いてありました。
「友だち幻想」
「君たちはどう生きるか」
タイトルは忘れてしまった「弱くて迷惑な人」と「僕たちはガンダムのジムである」。
上に2冊は校長推薦で、後2冊は最近の若者に読まれている本を司書さんに選んでもらったと言っていました。
しかし、後の2冊においては、私でさえ題名を見ただけでもネガティブになりそうでした。
「あなたは弱い人間です。
他人に迷惑をかけています」
「あなたはガンダムのような強いスーツで戦う人ではない
弱いスーツで戦う人たちです。
いかにして生き残るのか考えましょう」
と言われているようでした。
「これが本音なのだから読み取るように」の圧力かと苦しくなったものです。
家に帰って金ちゃんに見せると、やはり、ややうつむきがちになって「テレビでやってた。いじめに合っても仕返ししない話でしょ」と言いました。
「君たちはどう生きるか」、は有名な本です。
それでも何とかページをめくっていましたが、後の2冊はほとんど手に取らなかったようでした。
後で校長から電話があって「校長が読め、と言ったんではなく、状況に応じて、お母さんが判断して渡してください」とフォローがありました。
私は校長が嫌がらせをしているようには感じなかったので、この中に何か得るものが必ずある、との思いで素直に読むことにしました。
面白かったのは、一番読みたくなかった「弱くて迷惑な」人の本の中に書いてありました。
●「いじめ」のような状況にある人は、周りの人たち全てを、加害者のように見てしまうようになる。
●「うつ」になる人、ならない人は、自分に対するイメージが大きく違う。
うつになる人は、自分を冷静に見れる人。ならない人は、自分を実際よりも良く見ている人である。
それを「ポジティブイリュージョン」という。
この箇所は金ちゃんと笑いました。
「ポジティブイリュージョン!」と言い続けていると、「ママは『ポジティブ、ポジティブ』ってうるさい」と金ちゃんが怒りました。
私はため息をつきました。
本を4冊読んだだけで、はっと目からうろこが落ちるように、違う世界を見ることが出来るならいいのですが。
犬山先生にも、「きつい指導」(どんな指導かわかりませんが)をしていると思います。金ちゃんにも自力で立ち直ってもらいたいとの思いなのでしょう。