ユタカ2イキルオテツダイ

ほんの少しずつ、ゆたかになってゆきましょう

25話  人生を変えた人達

5月某日

 

金ちゃんは、いよいよ元号が変わる5月の連休から「合宿免許」に行きました。2週間も家を離れるのは初めてです。

少し心配もありましたが、1人部屋を選んだので、だいぶ気が楽です。

 

金ちゃんが選んだ合宿免許場 は千葉でした。そこに「連休をきっちり使って、近郊で免許を取るタイプ」

( 遊びに使わないところがなんとも )の人たちがいました。

初日には、4人でひとつのグループで 行動する時間割になっていました。

グループの人たちは、落ち着いていて、

ある程度の距離感を保ちながら コミュニケーションが取れる人たちでした。

 

その中でも、ひときわ目立っていたのは、

30歳のネパール人タブさんです。タブさんは親しくなるにつれ、自分のことを話すようになりました。

「 専門学校を出て、働いている。仕事には1番早く行く。終わってからも残業をすすんでやって土曜日も出勤している。

免許も自力で取ろうとしたが、うまくいかなかった、 それを知った会社が 費用も出してくれた 」など、なかなかいい話です。

いい会社だな、 と金ちゃんは思ったようです。

「上司で嫌な 奴がいて、 その人のせいで2、3人が辞めている。自分もいじめられて、もう辞めようと思った。

そのことを 70歳ぐらいの人に相談をした。すると『 あなたは外国から日本に来て、 仙台からこっちにまで来て、

そんな人が辞めたいって言うのは よっぽどのことだ』とその人は言った。

その後、 長い休みを取った。

そして 会社に戻ってみるとその嫌な上司はいなくなっていた。その後も真面目に働いて、 今では 新しく入ってきた 人に仕事を教える立場になっている」

 

 

またグループ内の女子大生は、浪人の経験もあるし、 金ちゃんが通っていた明光義塾で 講師もやっていて、

気が合う 人でした。

金ちゃんが在宅で 受験勉強をすることについて話したとき、その人は言いました。

「同じくらい勉強が出来ても、在宅では点がとれない。予備校に通ったほうがいい」

 それを聞いた金ちゃんは、悩みます。

 

グループ以外でも 待ち時間に話しかけてくる人が何人もいました。

25歳で 医療事務、「 仕事はとっても楽しい」と言っている人 、きんちゃんが大変じゃないですか、と聞くと 「私は変わり者だから」と言いました。

女性で通訳のような仕事で、バリバリ働いている人もいました。

 

30歳ぐらいの中間管理職の人 。相部屋だった人が門限を守れないので学校から注意を受けて退出させられた話。

仕事は人間関係が大変だという話を聞きますけど、とふると「大変じゃないよ。 ダメなやつは切っちゃえばいい」と言います。

 

未成年でタバコを吸ったり、お酒を飲んだりしている人。その人と話したタブさんが後で、「あいつやばかったな」とさりげなく言ったり。

 

学校で教わる模範的な、みんなと仲良くしなくてはならないとか、そういうことを社会人は言っていないようです。

どんな人が認められて、どんな人が社会で通用しないのか。

金ちゃんの今までの世界は限られた狭い中でした。そこと社会は違うようです。

 

こうして社会に出ている人の話を聞くと、思いやりがあったり、努力を認められたり、やりがいを感じていたりする人がいる。

そして人間的に問題のある人に対し、キレイごとではなくどうやって関わっているのかを知りました。

金ちゃんは、勇気が湧いてきたのではないでしょうか。

 

 

そんな中で一番仲良くなったのは、 けんじ君でした。金ちゃんの隣の部屋です。けんじ君が、壁を叩くのが合図です。

門限を越えてこっそり深夜まで話をしたり、英単語を覚える競争をしました。

けんじ君は、高校で1年間海外に留学経験があり、

9月からはカナダの大学に入学が決まっています。将来は起業したいと夢を語っています。

金ちゃんはそんな18歳にはじめて会ったのです。

金ちゃんも経営に興味があるのです。大学でITを学ぶのも同じでした。けんじ君が起業したら一緒に何かできないかと思うとワクワクします。

けんじ君とは、合宿から帰ってきてからもスカイプでつながっています。

 

同じグループの4人で撮った写真のなかで、金ちゃんは晴れ晴れとした笑顔で写っていました。

 

 

 合宿免許から帰ってくると Twitter にダイレクトメールを受けとります。知らない人からです。

受験勉強を在宅にするべきか、 予備校に行くべきか 悩みをツイートしていて、それに応えてくれたのです。

その人は、

「自分も大変だった時に周りの人から支えてもらった、だから今度は自分がそういう人を支える番だ」

という気持ちで 、メッセージをくれたのです。

 私は涙が出そうになりました。

金ちゃんは言います。

「もし行けなかったらそれはすごく辛いことだけど、 でも違う大学で違う方向でも出来ることがある。

その人は YouTube もやってるからママも見た方がいい」

私は見てみました。

動画は、仮面浪人1年浪人1年、在宅で勉強し行きたい大学を受験。合格発表当日の生配信です。

そして結果は…。かっこよく。号泣。自分の現実を受け止めています。その後も動画配信は続けていて、内容は勉強です。

 

 

そしてもう一人、ダイレクトメールをくれた人がいました。社会人で結婚していて子供もいる人です。

「京都大を目指していましたが落ちて、すべり止めも落ちて、その下の大学に行くことになりました。

そして、ゼネコンに就職して今は家庭を持っていて幸せに暮らしています。受験のことは今でも夢に見ます。でも、悔いはありません」。

 

金ちゃんは様々な人の体験を垣間見て、自分の未来が、全力の結果がどのようになっても、それが絶望ではないことを知りました。

 

 金ちゃんは、こう言いました。「京大を出て、就職して、結婚して子供もいて、それからブロガーになった人がいる」。

合宿免許に行くまでは、大学に行かなくてもブログで生きていく道もあるのではないかと、思い描くこともありました。

 

しかし、今は自分で勉強のスケジュールを組み立て、体調にも気を使って受験勉強に取り組んでいます。

初めの目標通り、自宅で独学で合格を目指すのです。もう迷いはありません。

また、一人で、毎日毎日机に向かう日々がはじまりました。