ユタカ2イキルオテツダイ

ほんの少しずつ、ゆたかになってゆきましょう

28話 青空

金ちゃんは数日前に模試を終えたばかりで、 眠たそうな顔をして 待ち合わせの場所にいました。

これから一緒に服を選んで、そのあと家で お昼ご飯を食べる予定です。

 

店には結局2時間もいました。

金ちゃんは何回 試着を繰り返したことでしょう。

私は、ぐったりして椅子に腰かけています。

 

「そのタリーズコーヒーで一回休憩しようか」

 

金ちゃんは椅子の背もたれに 両手をのせてこう言いました。

 

「いや、ここで決めたい」

 

疲れ果てたけど 納得のいく服選びができました。

自分の心地よさは自分にしかわかりません。

はじめに気に入った服はサイズがなくて、マネキンの着ているコーディネートはコートが好きじゃなくて。

 

金ちゃんはいつもあきらめない。高校受験の時も、マラソンも。大学受験も。

 

店員さんも、金ちゃんに付き合ってくれて、注文を聞きながら スマホでコーディネートを見せてくれたりしました。

でもどれも金ちゃんはうなずきません。

 

これも金ちゃんの個性、才能なんだなと思いました。

ブログのデザインも完璧なんです。

自分のペースで出来る仕事がむいているのだと思います。

 

金ちゃんは少し猫背になって「疲れた」と言いながら店を出ました。

 

「で、今日の料理は何」

 

「昨日のうちに作っておいた、ヒジキ煮物と」

 

「……」

 

「ぶり大根」

 

「うん」

 

「あとは、ちょっとやること残ってるけどギョーザ」

 

「いいねぇ!」

 

 家に帰ると金ちゃんが「何か手伝うことある」というので 餃子を包んでもらうことにしました。

金ちゃんはお皿を並べます。以前はそんなこと何一つしませんでした。

少しずつ大人になっていきます。

 

台の上にラップを敷いて薄く片栗粉を広げ,その上に包んだ餃子をのせます。

焼いたときにその片栗粉が餃子の羽になり バリバリになります。とってもおいしい。

 

金ちゃんは餃子の皮を合わせてから ひだを作るので 少ししか具が入りません。

 

「手前の皮だけをひだにしないと、こう」

 

嫌な予感はしていましたがやっぱりできないようです。

金ちゃんは気にしません。

結局 水をつけて半分に折りぎゅっと手で握るだけになりました。

金ちゃんはその具のはみ出た餃子を「ラッキー餃子」と名付けました。私は笑いました。

 

そんな時間が何よりもたのしい。

 

そんなふうに、わいわい しているうちに餃子は焼けて 「うまーい」と 私が言い金ちゃんも「うまい 、やっぱり餃子は手作りだね」と言いました。

 

「日本人のいない海外で一人で暮らすのもいいよね」

 

「えっ」

 

「DaiGoさんも、一人で海外に行って出会った人に仕事もらったりしたって」

 

「えーっと、留学とか」

 

「りゅうがくー、もいいかもね。1年くらいプログラミングの勉強してから一人でー…」

 

私は本当にびっくりしました。 家の中にずっといて 外に出ることのない金ちゃんです。

 そんなことを言い出すとは 夢にも思いませんでした。

 

「僕がほら 、けんじと出会ったのも  教習所に 一人で行った時だし」

 

「うんうん 、楽しいと思うよ 。ママは若いうちに 色々そういうことやってみたほうが いいと思ってる」

 

わたしはあくまで、大学生活の合間にすること、と捉えようとしていました。

 

しかし、金ちゃんは上手くいけばそのままフリーで働きたい、そんなふうに思っているのです。

それを遠回しに言っているのです。

 

優しい子なので 親(私)の考えを先取りしてしまいます。

 

大学を卒業して、ちゃんとした企業に1度は就職する。

それが、安全な道だと私は思っていました。




私の耳に入ってくるのはこういうことです。斎藤一人さんの話です。

「心が軽くなる、重くなると言いますが、何が起こっているのでしょうか」という質問に答えています。

 

世界はどんどん良くなっていく 100年前より 200年前より今のほうがもっといい。

 未来はもっと良くなっていくのに 未来は悪くなると 言う人がいる。

未来が良くなると思ってる人は 空が晴れたように明るくなる。

未来が良くなると思っている人に心配事なんかあるわけない。

 

未来は悪くなると思っている人は 本当はよくなっていくはずなのに 心がその考えに抵抗して重くなっている。

その間違った観念が 抵抗している。

世の中が良くなればあなたの生活も良くなるもの。

 

親の教育。「そんなんじゃダメになる」とか「世間はそんなに甘くない」とか 誘導しようとした 。

間違った誘導 。

このままで大丈夫なんだって教えてない。

それで、無理やり勉強させようとしたり嫌なことをさせようとした。

それで重くなっちゃった。





私は自分の昔のことを 思い返していました。

 

学校を卒業後、バイトをしながらチャンスを探していました。

ある業界で働きたかったのですが、どうしたらいいのか全く分かりませんでした。

 

ある時、この人の舞台美術は すごいと思っていた人が、  私の職場に顔を出しました。

その時私は「何か仕事ありませんか」と言ってしまったんです。

 

私は、そうやって道を切り開いて行った人の話を本で読んでいたんです。

 

それからしばらくして 「他の人の仕事があるけど」と言いにこられました。

私は飛び上がるほど嬉しかった。即座に「やります」と言いました。

 

後から思い出してみると 何か鋭い目で 私を見ている 人が いた、その人が依頼人でした。

 

とにかく何もかも素人で 自分で調べながら色々やっていました。 それでもとっても楽しかったんです。

 そんな仕事の中でやはりこの人は、と思う人がいました。

私はまた「何か仕事ありませんか」と声をかけて 仕事をもらいました。

雑用です。

しかし、超 一流の人たちの仕事を近くで見ることが出来ました。

ものすごく楽しくて、人生最高の時でした。



そしてあるとき 小さな所の人から仕事の依頼がありました。

もちろん引き受けました。

しかし、それまでやっていた大きい所の仕事とは、要領が全く違いました。

 

丁寧な説明もありませんでしたし、仕事の進み具合も早くて雑でした。

 

私は、大失敗をやらかしました。

 

私は未熟で子供でした。

上手くいっていてのは、周りの大人の力でした。

私は自分の力だと勘違いしていました。

 

失敗に慣れていなかった私は、ひどく落ち込みました。

「もう、ダメなんだ」と思いました。

 

 そんな様子を見かねてか 、はじめて仕事をくれた人が私にアドバイスを始めました。

 

強烈な個性の人(オレンジ色のミニスカートをはいていた)を指さして

「お前、あんな風になれ」。

小さな仕事でいいと言う私に

「 それじゃあだめなんだ、もっと外に出て大きくなれ」。

私がなにか言おうとすると「いいから俺の言うことを聞け」と言いました。

「お前この職業をやれ、10年はかかる」。

 

いま思うと、正しいこともあったと思います。

成功の振動数というのがあって、その振動数をあげる方法に派手な服を着る。というのがあるし、

落ち込むとオーラが内向きになる。ということもあるのうですから、それを外向きに変えようとしてくれたのでしょう。

私が気弱になり、人に頼って生きていこうとしたことで、はっぱをかけるつもりもあったのだと思います。

やれと言われた職業は、一人でコツコツやるのが得意な私に向いていました。



しかし、言われれば言われるほど、私の心は重くなっていきました。

「そのままのお前はダメなんだ」と言われているように感じてしまったのです。

 

思い返すと、私の父親はいつも私をバカにしていたし、母親は心配そうな顔をして私を見ていました。

 

「そのままの自分はダメなんだ」と思う下地は十分に出来上がっていました。

 

しかしその考えを受け入れたのは自分です。

それに驚くべきことですが、そう思っている方が楽だったのだと最近気が付きました。

 





あなたはそのままで大丈夫なんだ。

 

あなたはどんどん良くなる。

 

そして空が晴れたような明るい心になる。

 

心配なんてすることはない。




その考えを受け入れることが出来れば、もう少し明るく軽やかな心になれる。

必要以上に落ち込むことはなくなる、そう思いました。