彼はローカル誌の記者をやっている。 時々、封書が届くことがある 。痴話喧嘩のてんまつや、小さな事件のタレコミだ。
彼はまたそんなことだろうと思って 封を開けた 。クラシカルな 字体だった 。
しかし、その内容は 衝撃的なものだった。
初めまして。 私は ニッケイ町に住んでいる 者でございます。このような突然のお手紙を失礼いたします。
どうしても 聞いていただきたいことがございました。今世間を騒がせている事件のことでございます 。「行方不明の2人」未解決の事件についてでございます。
あの日、知人が我が家を訪ねてまいりました。大きな声で騒ぎ立てる下品な人でした。 夜遅くなりましたので泊っていかれることになりました。
そして、悲劇が起こったのでございます。
夜中に物音がして、私は居間へ降りました。すると、知人がうつぶせに倒れております。
声をかけても返事はありません。
はっと気づきましたので 、急いで2階の娘の部屋に参りました。
娘のベッドは空で した。触れてみますとまだ生暖かく、そんなに時間は経っていないように思いました。
そこで私は 全てを悟ったのでございます。
ご存知のように この地域で 何年も前から 不審な出来事が起こっておりました。初めは小さな昆虫でした。 残忍な殺され方でございました。 犯人は見つかりません。
周辺の者達は 気味が悪く思いながら過ごしておりました 。
家の庭に 昆虫の死骸が 放り込まれたとき、私には、犯人が誰か分かったのでございます。
誰にも言えずに、それを土に埋めました。
そして今回も、私は……。
娘に問いただしたことがございます。すると、「知らない」と申します。
娘は作文で「ママを尊敬している」と書いておりました。私は英語の教師をしておりました。叔父は昆虫の学者でございます。
人に優しく思いやりをもって接するように、厳しく躾けてきたつもりでございます。
あの子は小さい時から人の気持ちがわからない 子供でした。しかし、ここまで愚かだったとは。
私の育て方に問題があったのでございましょう。
今、 娘は 私の 体に戻っております。 胎児になる前の状態で 私の体に宿っております 。
彼女はやり直せます。 新しい人生を始めることができるのです。
興味本位の人たちが、私共の もとに訪れて 嘲笑っております。私にはそれが堪えられません。
娘はここにおりません。ですが、私にそれを証明することは出来ません。
そこで誠に勝手なお願いでございますが、「行方不明の2人を遠い街で見かけた」、
などの記事を書いて頂けないでしょうか。
いくらかかっても構いません。
お引き受けいただきますよう切に懇願致します。
7月6日 カンファーローレル
ナンジャモンジャ殿