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ほんの少しずつ、ゆたかになってゆきましょう

日本の市場インフラの確かさ

『グローバル金融新秩序 』(淵田康之 、2009)

筆者に日本の精神性というものを感じます。以下の文で。

 グローバルなものに日本がいかに関わるかという課題を考える上での道標は

、 憲法前文にある「国際社会において名誉ある地位を占めたい」 という思いかもしれない。

〈以下一部抜粋・要約〉

 

誇るべき日本金融市場の競争力

大きなエネルギーを投入して、 日本が金融システムの改革を進めてきた背景には、「 ニューヨーク、ロンドンと並ぶ国際金融センター 」を目指そうという意図もあり、 逆に言えば、 ニューヨーク、 ロンドンに比べて劣っているとの認識があった。

 

本書で議論してきたように 、今回の金融危機で顕在化した問題、 とりわけ「 市場型システミック・リスク」の問題に対しては、 日本としてもその予防策を導入し、 また危機が発生した場合の 対応策を事前に整理しておく必要がある。

 

日本の金融庁 ・日銀の検査・ 考査をよく言う民間金融人に会ったことはないが、 このおかげで大きな問題が避けられている面もあろう。

 流動性リスクのところで触れたように、 日銀の流動性リスク管理の精度の高さは、 世界に誇るべきものであり、 こうした能力のない英国が、 自国市場ばかりかグローバルなレベルでも、 流動性規制を強化することにリーダーシップを発揮しているのは、 日本としては随分と迷惑な話である。

 

官だけでなく民も 決して欧米に遅れていない部分が多いことが確認できる 。

ガバナンスやコンプライアンス、 そしてリスク管理で欧米金融機関が先んじているというのは、 本当だったのだろうか。

 仮にそうであっても、 欧米金融機関がこれだけの問題に陥ったということは、 少なくとも自らが抱えるリスクの大きさや 不健全なカルチャーを前提として評価すれば、 全く不完全なレベルだったということであろう。

 

米格付け会社の担当者が、 日本では証券化などイノベーティブな金融市場が発展していないため、 そうした遅れた証券市場の下で活動している日本の証券会社は 、米国の証券会社よりも格付けはどうしても低くせざるを得ない、 と主張していたことが思い出される。

 格付けとは 債権の返済の確実性の評価であるはずなのに、 特定の金融市場のビジネス・モデルを絶対視し 、それと違う市場は劣っているから格付けも低いといったロジックには 疑問を感じたものである。

 そして今日、高い格付けを誇っていた米国の大手投資銀行は全て 、破綻したり 、買収や公的支援で救済されざるをえない状況に陥ったのである。

 

米国のトライパーティ・レポや 英国の決済システムで生じたトラブルを踏まえても、混乱なく大きなストレスを乗り切った 日本の市場インフラのレベルの高さについて 大いに誇っても良いであろう。

 業界をあげて全銀ネットなど国民に高い利便性を提供するシステム・インフラを構築してきた邦銀の取り組みは、 未だに小切手をやり取りしている米国などに比べても 、はるかに優れていた。

 今回、証券決済など、 ホールセール分野でも そのシステムの堅牢性が改めて確認できたと言えよう。

 

しかも、金融危機が一段と深刻化する最中の 2009年1月、 日本は株券電子化という一大プロジェクトを実施してのけた 。

株券電子化は、法律の理論構成から始まり、 実際の法案作成作業 、関連システム構築 、業務フローの膨大な見直し、 国民への制度の周知徹底、店頭や電話による顧客の問い合わせへの対応など、 学者、行政や自主規制機関、 取引所や決済機関、 証券会社、 銀行を中心に、 経済団体 、そしてユーザー全体の協力によって初めて成り立った 世紀の国家プロジェクトであった 。

これが金融危機の暴風の最中に、 粛々と完遂されたのである。

 市場インフラというのは、きちんと動いて当たり前であるが 、これが「経済の足を引っ張らない金融」として 最も重要なことである。

 出した注文がきちんと執行され、 証券の受け渡し、 資金の決済が予定通り行われること、 ATM がきちんと動き、 送ったお金が相手に確実に届くこと、 こうした日々の営みに一切の支障を来たさず 、システムの高度化を続け、 特に株券電子化のような大事業を実現するのは容易なことではあるまい。 

こうした市場インフラの設計や運営に携わる多くの人々は、 たまに問題が起きた時にしか注目を浴びない損な役回りだが 、こういう人々がいて初めて金融は当たり前に機能しているのである。

 こうした人々のプロ意識の高さも、 日本が誇るべきものであろう。

 

私(チキハ)の感想です。

かなり前の話ですが海外に住んでいた友人が、「公共料金の自動引き落としなんかできない」 と言っていたのを思い出します。

それほど 信用されていないシステムの中で 生活をしていたということです。

 日本でそのような不安を抱いている人は少ないのではないでしょうか。

そういった信用が当たり前のようにある日本 、というのを改めて認識する ことができました。

 

グローバル金融新秩序―G20時代のルールを読み解く

グローバル金融新秩序―G20時代のルールを読み解く

  • 作者:淵田 康之
  • 発売日: 2009/12/01
  • メディア: 単行本