『格差と不安定のグローバル経済学』(ジェームズ・K・ガルブレイス、訳 塚原康博/鈴木賢志/馬場正弘/鎌田亨、2014)
著者は、主流派経済学者とは一線を画する立場をとっています。
実証分析(統計的なデータで検証する)を用い独自の視点をもちます。
結果として、格差の原因について広く知られていることを認めていません。
- 教育と技術の追いかけっこ
- 国際貿易の増加や低賃金の国との競争
- 政治システム
- 平等主義的社会
では格差の原因をどう説明できたのでしょうか。
<以下一部抜粋・要約>
経済格差と世界の危機
本書は長年にわたる観察と測定をまとめたものである。
われわれは何を学んだだろうか。
第1に、グローバルな格差の研究では、傾向や共通のパターンが非常に明確で一貫した形で現れる。
この事実のみでも、世界規模の賃金の分配(つまり所得)に圧倒的な影響を与える力は系統的であり、マクロ経済的であることが証明される。
このような力は、共通かつ系統的な方法で世界経済に影響を与える力の産物であり、個々の国に作用する力であり、おそらくはそれらの国が有する制度や採用された政策によって修正されるだろうが、それらの制御を超える力である。
第2に、これらの力は主に金融的な特徴を持つ。
それらは、まず利子率や金融投資の流れ、国内および国際的な債務に関わる支払いと関係がある。
グローバルなレベルでは、格差の変化が共通の金融要因が説明の大部分(ほぼ全て)を占めている。
共通の要素が取り除かれれば、1980年から2000年の世代を支配していた格差の拡大はすっかり消えてしまうのだ。
第3に、1980年に始まり2000年に頂点に達した世界経済のスーパーバブルは、低所得の国々と低所得の人々にとってはスーパー危機であった。
個人レベルでも国際レベルでも、債権者に比べて債務者は敗北した。
この現象に対する最も単純、明確、そして説得力のある説明は、それが政策の意図した結果であるということである。
第4に、アメリカのような豊かな国々では、1980年以降、経済のパフォーマンスがほぼ信用循環によって決まってきた。
金融のブームと崩壊は雇用のパフォーマンスを左右し、その結果、繁栄は所得格差の増大と関連している。
さらに、格差増大の構造を調べてみると、実際にほぼ全ての国で金融部門を通じた所得の割合の増大という同じ痕跡が見つかる。
第5に、政治システムが格差の動向に影響を与えようとする能力及び意欲は、現在の強い世界においては非常に限られている。
今日の世界に残っている少数の安定した社会民主主義国(その大多数は北ヨーロッパにある)において、不安定な世界情勢にもかかわらず、低水準の格差を維持しているのは、政治的構造そのものと言うよりは経済制度のおかげである。
民主主義への移行が、一般に格差縮小のために解決するべき問題になり得ると言う証拠は無い。
カルドーゾとルーラ(そして現在のジルマ・ルセフ)政権下のブラジルは、対外的な条件が良く、
低金利で、政府が長年にわたり安定した政策を遂行すると決定している場合において、貧困と格差の減少に向けた進歩が現代社会においてもまだ可能であることを示した。
第6に、世界中の(特にヨーロッパの)労働市場の働きにおいて格差と失業には系統的な関係があるが、それは「労働市場の柔軟性」の支持者が長年強い熱意の下に主張してきた関係ではない。
それはむしろ逆である。
より平等主義的な社会ほど安定した低い失業率を示す傾向にあることを間した。
またそれらの国は、部分的には、進んだ産業部門の国内誘致と遅れた産業部門の国外移転や閉鎖により、より高技術進歩率と生産性の向上を達成する傾向がある。
したがって、長年にわたり北ヨーロッパの平等主義的な社会民主主義国が豊かになるのは偶然では無いのである。
それでは、経済格差と世界金融経済危機の関係はどのようになっているのだろうか。
ここでは2つの特徴的な事実について述べていこう。
第一に、1980年から2000年にかけての世界経済における大規模な格差の増大と、それがアメリカを含む多くの国でミレニアムの年に頂点を迎えたのは、
金持ち中の金持ちの所得と富が集中したこと、そしてそれに対応した金融の脆弱さが他の人たちに影響を与えたことを基本的に反映したものである。
2001年に就任したてのジョージ・W・ブッシュ政権が直面した問題は2つあった。
対外的には、世界の他の地域から資本を引き出す余裕があまりなかった。
国内的には、アメリカにおいて主にリーダーシップを発揮してきた産業部門は行き詰まっていた。
どうすれば良いのか。
すぐに可決したブッシュ時代の解決策はアフガニスタンとイラクにおける軍事的な関与であった。
しかし現代の戦争が国内の経済成長と国全体の雇用喪失に持続的かつ大きな効果をもたらすことはないことが明らかになった。
残る選択肢は、アメリカの家計、すなわち世界において残された支払い能力のある集団の需要の増加を強化することであった。
監視が弱く、保証が弱く、詳細が不明確で、最終的な分析では詐欺的とされたローンが大量に、長くは支払いが続けられないであろうことがわかっている人々に提供されていたのである。
つまり金融危機(そしてそれが生み出した世界経済危機)は、さらなる展開として自然の成り行きとしての格差の増大を示していると言うよりも、
むしろすでに2000年時点では終了していた格差を元にした経済成長モデルを持続させようという意図的な努力の結果だったのである。
私(チキハ)の感想です。
格差の原因として以下のものが挙げられていると思います。
- 金融要因が大部分を占めている
- 政策の意図した結果である
金融要因、それは利子率・ 金融投資・債務に関することです。
政策の意図、これは深い意味が含まれているように思いました。
結果として、金持ち中の金持ちに所得と富が集中しました。
北ヨーロッパの社会民主主義国が豊かになったのは、進んだ産業部門の国内誘致と遅れた産業部門の国外移転や閉鎖などの政策によるものとあります。
平等主義的のほうが格差が少なく失業率が低いです。
平等主義とは
人は生まれながらにして平等であり,したがって万人は政治的にも社会的にも平等に扱われねばならないとする主張。人間の本性を平等とみなす普遍的信念なしに平等主義はありえないが,それだけでは十分ではない。人間の本質的平等にもかかわらず,現実にはなんらかの人為的制度が政治的社会的な平等を妨げており,しかも,そうした制度は人為である以上変更可能であるという認識が加わったとき,はじめて平等主義は現実的意味をもつ。(世界大百科事典第2版)
アメリカのブッシュ政権の行った政策が、浮き彫りにされてみると、一歩足を引いて呆れてしまうような感覚を持ちました。
私たちはこのような結果から進むべき方向を見ることができると思いました。
それは容易なことでないですが、活動している人たちがいます。
巻末にこう書いてあります。
われわれは、これらの異常な出来事の結果を切り抜ける努力を続けていく。