『日本円高繁栄論』(斎藤精一郎、1988)
例えば米ドルが安くなったとして日本円はどうなるのでしょうか。
日本政府の借金が2016年にはGDP比230%を超え、破綻するのではないかとずいぶん騒がれていました。
ですから、私は円の価値も一気に低くなって円は安くなるのではないかそんなふうに考えていました。
しかし日本は、借りている相手はほとんど国内(銀行など)であって、円建てであるためお金を刷って返せばいい。
つまり、やり方次第で何とかなるのではないか、という話があります。
この本が書かれたのは日本の経済がまだまだ元気だったころの話です。
そのころの西ドイツのマルクは、EUのユーロに変わりました。
新興国中国はGDP2位にまで台頭しました。
それでも、これから私たちに起こるかもしれないことを考えるのにとても役に立つ内容でした。
<以下一部抜粋・要約>
西ドイツはマルク高をうまく利用した
戦後、敗戦国から再出発し、経済的に成功した点で、西ドイツと日本は非常によく似た点があった。
円が高くなったようにマルクが高くなっていることも同じである。
ベンツは、どこの国にも負けない。
精密機器、医療機械も自分の国は得意だ。
だがチーズはオランダ、スコッチはイギリスから買った方が良い。
つまり国民の生活必需品を多く買い、自信のある製品を売ることで、貿易のバランスをとった。
大陸の中の一国で歴史的にも色々ともまれてきた西ドイツと、島国で外国というと遠いところだという感覚の日本とでは、初めから置かれた条件が違っていたが、ともあれ西ドイツはマルク高を日本とは比べ物にならないくらいうまく利用したのである。
ドル大暴落が起こったら円は基軸通貨になれるか
いま自由世界経済で最大の問題はドル暴落である。
本当にドルは大丈夫なのだろうか。
少なくとも、アメリカが借金したものをドルで支払えるうちはいい。
ドルが仮に紙切れであっても、アメリカはいくらでも刷ることができるし、それを受け取ってもらえるということは、まだドルに信用があるということだからだ。
1919年に第一次世界大戦が終わった後、そこで世界経済体制に大きな変化が起こった。当時の基軸通貨のポンドが弱くなって、イギリスの国際収支が弱体化したことである。
この時アメリカは世界最大の債権国になった。
アメリカがいくら弱っても、かつてのイギリスとアメリカのような世界経済の議題の交代が、ドルと円の間で行われることには無理がある。
マルクもだめだが円もダメなのだ。
無論ポンドの再登場も、フラン浮上の可能性もない。
「暗黒の月曜日」は不吉な予兆か
アメリカ経済が不安定性を踏み込んでしまった。
1987年10月19日の「暗黒の月曜日」の株式大暴落だ。
この日に、ニューヨークの株式市場は、ダウ平均で23%近くのクラッシュを演じた。
「使用前」「使用後」という言葉があるが、この「暗黒の月曜日」を境に、アメリカ経済並びに世界経済は様相を一変させてしまった。
アメリカ経済が「双子の赤字」(貿易赤字と財政赤字)を抱え、その累積債務残高を見積もっていけば、ドルへの信頼はまっしぐらに崩れていく。
日米貿易が均衡しても円高がストップすることはない
ちょっと85年9月のプラザ合意以降の円高の動きを振り返ってみよう。
あのとき、澄田日銀総裁は1ドル= 210円から200円が適正水準ともらしたようだが、みるみるうちにレートは上昇し、200円の大台を越え、86年春には180円に達してしまった。
マスコミには「円高恐怖恐慌論」が溢れ、経団連は、これで日本経済の没落必至と叫んだ。
しかし、どうだったか。
180円の防衛ラインを越えてしまったが、日本経済は景気減速のトーンが強まったものの、崩壊などはしなかった。
次にマスコミや財界は1ドル= 160円こそ本当の防衛ラインだと叫んだ。
だが、これも86年秋には越え、宮沢・ベーカー合意で150円を確約されたとされた。
しかし、これもつかの間、ついに87年春には140円台を超えた。
そして日本経済は、この水準でも崩壊しなかった。
円高がいくら進んでも日本の貿易黒字は減らない
多くの日本企業は、今は円高になったら当然するであろう価格変更政策をとらず、逆のことをした。
つまり、輸出価格を可能な限り上げないでおいて、そのかわり国内価格も下げなかった。
もう一つは、前の円安の時にため込んだ余裕がまだあったことである。
いかに国内でうまく調整したといっても、それだけで急激な円高のマイナスを吸収できるはずがなかった。
輸出企業はどこも苦しんだが、それでも何とか持ちこたえられたのは、過去の蓄積があったからである。
思い切った賃上げをしなければ内需拡大は持続しない
金利が下がっても内需拡大の持続性は望めない。
では、どうしたらいいのか。
政府が本当に内需拡大を持続したいと思うなら、国民の所得を増大させなければならない。
物価は下がらなければおかしい
円高による差益はこの2年間で約20兆円あったが、還元されたのは電気、ガス料金ガソリン、灯油などにとどまっている。
航空運賃、タクシー、私鉄なども円高の恩恵を受けているが下がっていない。
農産物も差益を得ているが、肉や油脂は若干下がった程度だ。
ただし、物価が下がる方向に向かう事は、別の面で企業を圧迫する。
国産品は安い輸入品と競合しなければならず、そうなれば賃金を上げることも難しくなるからだ。
ドルが暴落して一番困るのは日本だ
日本が今相当の犠牲を払っても、アメリカ経済の再建に力をかさなければならない理由ははっきりしている。
それは、仮にドルが暴落したとしても、ドルにとって代われる世界通貨はないからである。
仮にドルが暴落してもだ。
ドル暴落が現実のものとなれば、自由世界の経済は大混乱をきたす。
ドルをため込んでいるのは日本だから、日本が1番損をするに決まっているのだ。
日本の産業構造の転換が内需拡大の呼水になる
日本列島改造。
内需の拡大はこの動きの中で起きる。
ただそれには時間がかかる。
内需がパッと膨らんで輸入が増大し、貿易バランスがすぐに取れるというものではない。
戦後の日本が行った住宅政策だけでも20年の歳月を要した。
現代は、すべてにテンポが速くなっているが、それでも10年や15年はかかるだろう。
私(チキハ)の感想です。
1985年プラザ合意発表の日は1ドル235円でした。
始まった円高は10年後に約80円をつけました。
その動きはおおむね著者の読み通りです。
素晴らしいです。
その後は行ったり来たりを繰り返しています。
「アメリカが立ち直るまで支える」とありました。
しかしアメリカは立ち直りませんでした。
円が最高値をつけたのは2011年、日本は大きな貿易赤字となりました。
共倒れ、だったのですね。
トランプ(前)大統領は、アメリカは世界から手を引くという政策のようでした。
バイデン政権は、支持率低下しています。
いよいよアメリカが行き詰まりを見せたとき、日本はどうなるのでしょうか。
円はドルに対して倍以上高くなる(50円)ことを予想する人もいるようです。
え、日本の貿易黒字はなくなったのでは?
しかし、EUは英国が抜け、コロナ禍では大きな打撃を受けました。
中国は公務員の給料が30%減り、労働者に賃金が払えずデモが起こっています。
新しい世界基軸通貨は出来るのでしょうか。
その具体的な話はまだ聞きません。
相対的に、日本(円)は上がってもおかしくないと思いました(株は暴落する)。
この本で円高政策に求めたのは、列島改造、所得倍増です(産業構造改革、賃上げ)。
当時と違うのは、経済が世界に広がるのではなくて、内に向かっていることだと思いました。
輸入を増やすことは違ってくるのでしょう。
ここ数年の日本では、企業がお金を貯め込んでいて市場にまわらないなど問題視されています。
また、国民もお金を使わずに貯めこんでいます。
その貯蓄が役に立ちます。
この本には日本は何度も危機を乗り越えてきたと書いてありました。
次もマスコミは日本没落の危機を書き立てるのだろうと思います。
しかし、日本の中枢には危機を乗り切る研究をしている人達が必ずいると思います。
空白の時間はあると思いますが安心して様子を見ていきたい。
今回もきっと上手くいくと思いました。