『とてつもない特権』(バリー・アイケングリーン、2012)
本書を読み解くのに、本の最終章にある解説から抜粋するのが、わかりやすいように思いました。
ざっくりまとめると「ドルは、ゆっくりと力を失う。国際通貨は、多極化する」ということです。
<以下一部抜粋・要約>
解題
国際通貨ドルの凋落と退場? 浅沼真爾
彼は、国際通貨体制が今後どのような展開を見せるかを見通そうとしている。
さて、彼の本書での主張は、彼自身の要約によれば、次の4点に集約できる。
- 強い通貨を持つ国が強いのではなく、強い国の通貨が強くなるのだ。
- 現在国際通貨の地位を占めている通貨は、圧倒的に有利な立場にあって、その地位は容易には変わらないと言う議論があるが、それは間違いだ。みんなが使うから、自分も使うーーというネットワーク経済の法則がある。しかし、それは絶対ではなく、時間とともに変化する。
- ドルが基軸通貨でなくなったとして、どの国の通貨が、あるいはどんな通貨がドルにとって変わるのかを考えると、ドルの終焉を云々するのは、多少時期尚早といわざるを得ない。
- 基軸通貨は世界でただ1つという状況が必然ではない。従来、ネットワーク効果を考えると、複数の基軸国通貨が世界経済で使用されると国際通貨制度は不安定になる、あるいはいずれは1つの基軸国通貨に収斂するという議論が有力だった。この議論は間違っている。
この結論は、「アメリカ経済の世界経済に占める比重が低下するから、当然ドルの基軸通貨としての役割も、圧倒的と言うわけにはいかなくなる。
ユーロや、長期的には中国の人民元等も国際通貨として使用されるようになるだろう。
しかし、当面ドルが基軸通貨の地位から降りることはない」という現状維持、あるいは現状肯定論だ。
それでは、本書のタイトルである「とてつもない特権」をアメリカ政府は今後も享受し続けることを肯定することになる。
基軸通貨国にだけこのような特権が許されるのは、非常に不公平だ。
スティグリッツ対アイケングリーン
国際通貨改革論者の1人は、コロンビア大学のスティグリッツだ。
彼を一躍世界的に有名にしたのは、1997年に始まったアジア金融危機に際してIMFがとった政策に対する痛烈な批判をした『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』の出版だ。
彼はよく「全世界的な正義」という言葉を口にする。
『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』と題した主として世界経済と途上国の発展についての論評だが、彼はその著書の中で、国際準備通貨制度の改革を提唱している。
スティグリッツは、「世界準備銀行」を設立して、この国際機構に真に世界的な国際準備通貨を発行せしめるべきだと提言している。
スティグリッツの提案は、要するに現行のSDR制度の改善・拡張版だということができるが、これをどのように評価すべきだろうか。
アイケングリーンが本書で言っているように、抽象レベルでは、このような構想は理にかなっているし、いくつかの魅力的な点もある。
しかし、アイケングリーンは、SDRやスティグリッツ構想を、揶揄を込めて「ファニー・マネー」と呼んでいる。
アメリカの子供たちは、人生ゲーム等のゲームで使う本物のグリーンバックではないお金のことを、ファニー・マネーと呼んでいる。
使い勝手の良さと便利さが備わっていなければ、国際通貨としての資格は無い。
国際通貨制度の行方
アイケングリーンは、大変勇気ある歴史家で、将来の歴史をもスケッチしようと試みている。
最後の章がそれで、彼は将来の国際通貨制度は複数通貨制にならざるを得ないと結論づけた上で、それではドルの崩壊の可能性はあるのかという問いを発している。
彼の最後の結論、「ドル崩壊のあるべき唯一のシナリオは、アメリカ自身の手によるものだ」は、実に壮大な歴史の教訓として導き出されたものである。
<以下本文より一部抜粋・要約>
いくつかの代案
次は、多様化した国際通貨を考えてみよう。
伝統的なドルの独占が次第に失われ、世界経済は多様化するから、多極化した通貨の時代がやってくる。
多極化した国際通貨の世界が出現するスピードは、ドルの優位性がどの程度大きいかによるだろう。
国際通貨の地位を占める競争は、「現職」が強いという議論を思い出してもらいたい。
個々の輸出者や債券発行者が、他の輸出者や債券発行者が使用するのと同じ通貨を使用するのは、理由がある。
このため現状維持が強化される。
そして、現状維持とは、ドルを選択することである。
しかし、この力関係がこれまでと同じように将来も働くわけではない。
ドル、ユーロ、人民元が優位な国際通貨となる一方、国際通貨がこれだけで独占されるわけではない。
3つの通貨が国際通貨となる余地があるという議論は、それ以外の通貨にも国際通貨となる余地があることを意味する。
それ以外の通貨とは、おそらく、人口学上の困難を抱える日本やロシアは候補にはならないだろう。
金融市場の進化と流動性の規模が重要な要素である。
仮に世界の生活水準が従来同様に収束するとすれば、人口が経済規模を決定する鍵となる。
この点を考えると、インドのルピーとブラジルのレアルが次の走者となる。
中国のように、インドとブラジルの通貨が国際的に使用されるようになるには、まだ課題がある。
中国のように、彼らは、外国人による自国の金融市場への参加を制限しており、そのために、両国の通貨を国際的に使用する魅力が制限されている。
それでも、彼らはやってくるだろう。
これらの議論は、ドルが国際通貨としての地位を失うことを意味するのではなく、単にライバルが出現することを示唆している。
輸出者や投資家がこれまで以上に幅広い選択肢を持つから、ドルは競争しなくてはならない。
第7章 ドル・クラッシュ
しかも、もしドルが急落すればどうなるのか。
もし外国人がドル資産を見限って、ドル通貨を放棄すれば。
もし何かあればアメリカの政策立案者は対応できるのか。
中国にとって、アメリカへの怒りにレバレッジを効かせる手段として金融的な武力を行使する方法がある。
現在、中国の公的機関は発行済みアメリカ国債の13%を保有している。
それを手放せば国際市場は大混乱になる。
離れすぎている同伴者
中国がアメリカ国債やドル通貨を暴落させた場合には、その中国自身が相当の金融的ダメージを受けるだろうという点である。
中国保有のドル資産が下落することになるからだ。
中国保有のアメリカ国債及び政府債は一人当たり1千ドルを超えている。
この保有資産を地政学的目的のために行使するとの決定が中国自身にもたらす損失は、無視できないだろう。
その保有の規模を考えると、誰がさらに傷つくのかも明確ではない。
現在の中国はGNPの40%が輸出部門で、さらにその4分の1は対米輸出だ。
アメリカ経済に金融危機をもたらすようなドルの急落は、中国輸出産業の収益を損なうだろう。
制御不能の市場
地政学的要因ではなく市場心理の急激な変化がドル暴落の引き金となる可能性がある。
投資家が、ある朝、目を覚ましてドル資産の保有はどうやら損だと判断するかもしれない。
経験法則として、投資家は他の投資家を後追いする。
市場が崩壊し、投資家は群れをなして走り、通貨は投資家パニックの餌食になる、こういった事は全て起こりうる事態だ。
こうした事態になれば、外国人は不安定なドル使用を躊躇するようになるだろう。
輸出者は貿易の建値や決済にあたり他の通貨にシフトする。
債券保有者はドル建て債を避ける。
これが、ドルが国際通貨としての資格を喪失する転換点となる。
ただこのシナリオには、ただ一点だけ誤りがある。
ここでは連邦準備制度(FRB)が一切ドル支持介入をしないものと想定されている。
パニックに起因すると考えられるドル下落に直面すれば、間違いなくFRBはドル価値支持に向けて外国為替市場で買い介入するだろう。
私(チキハ)の感想です。
最近は、ドル崩壊の足音が聞こえてきてますよ。
経済は一極集中から、多様化する、通貨も、多極化する、今それが始まっているようです。
国連参加国は、約200カ国です。
ロシア制裁などのため、ロシアが非友好国に指定したのは27カ国。
アメリカやヨーロッパ、日本などの国々です。
中国、インド、ブラジルは、含まれていないのです。
ロシア非友好国リスト 48の国と地域
「非友好国リスト」48の国と地域をロシアが公表。日本も指定される【一覧】 | ハフポスト NEWS
ロシアは自国通貨で決済を行なっています。
それに倣い、多くの国が自国通貨決済に移行しているという記事が、トルコの新聞に載りました。
ロシアの影響で多くの国がドルを放棄
藤原直哉 on Twitter: "チェメゾフ氏「ロシアの影響で多くの国がドルを放棄している
https://t.co/EXhnTp7wsk
機械翻訳
ロシアがドルでの支払いを拒否したことは、その有効性を示しており、この例に倣う国はますます増えている、とRostecのCEOであるSergey Chemezov氏はトルコの新聞Starに語っている。"
中国を含め、多くの国が、ロシアとの取引を続けています。
ドルを使わずに、です。
アメリカ側にいる、日本を含めた国々も、いずれは自国通貨で決済をするようになるのかもしれませんね。