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日本初の紙幣は、民間からだった【特殊な文化】

『藩札の経済学』(鹿野嘉昭、2011)

 

藩札とは、地域通貨のことです。

江戸時代には、8割の藩が発行していました。

<以下一部抜粋・要約>

 

はじめに

江戸時代、わが国では西日本地方所在の諸藩を中心として、藩札と称される紙幣が地域的な交換手段として広く流通していた。

藩札は通常、金銀貨との兌換が認められていない不換紙幣として発行されるところに特色があり、藩札発行の経験が明治以降における一般庶民による不換紙幣の受け入れや流通に大きく寄与したとされている。

また、藩札という貨幣空間は世界的に見てもあまり例がなく、同時代の世界のなかでも特異な貨幣の流通事例として評価されている。

ただし、藩札は突然登場したわけではなく、室町時代末期から江戸時代初期にかけては、伊勢国、大和国、摂津国など近畿地方を中心に私札と呼ばれる紙幣が地域的な交換手段として流通していた。

これら畿内古紙幣が藩札の原型(プロトタイプ)とされている。

畿内古紙幣の代表的なものとしては、伊勢国山田地方で発行された山田羽書が挙げられる。

この山田羽書において貨幣の要件とされる定額化や様式の統一化が初めて図られたため、山田羽書こそがわが国における紙幣の源流であるという捉え方が広く支持されている。

明治時代になり、藩札は増発禁止となった後、廃藩置県とともにその役割を超えて明治12年までに新貨と交換され(この交換を藩札整理という)、世の中から姿を消した。

 

藩札前史としての私札の発展

わが国においては、室町時代末期から江戸時代初期にかけて約60年の間、有力商人が単独もしくは共同で、ときには領主権力からの承認を得て発行した「私札」と呼ばれる紙幣が地域的な交換手段として流通していた。

江戸時代後期の天保期以降においても公共、有力社寺が私札を発行していたため、これらとの峻別を目的として、初期私札は、その発行・流通地域が伊勢国、大和国、摂津国など近畿地方に集中していたことにちなんで「畿内古紙幣」と呼ばれる。

本章は、この畿内古紙幣に関する既往研究成果を踏まえつつ、それが発行されるに至った背景、発行状況及び流通実態について改めて検討しようとするものである。そして、

①初期私札は、室町時代後期からの撰銭という貨幣選別行動の高まりに伴う銭貨流通の混乱の中で生じた地域的な通貨不足あるいは少額貨幣不足への対応措置として考案された。

②ほとんどの場合、紙幣私札は商品の仕入れ資金あるいは賃金の支払い手段として有力商人等により発行された。

③発行元となった商人の信用度が極めて高かったため、私札の多くは、償還(兌換)されるまでの間、銭貨に変わる地域的な少額の交換手段として広く利用されていた可能性は否定できない、と主張される。

 

私札発行をどのように捉えるか

私札研究において研究者の関心を最も集めたのは、伊勢国山田地方で発行された山田羽書であった。

現在では、山田羽書は、

①御師と呼ばれる伊勢神宮に仕える有力商人により、その高い信用力と宗教的権威を背景に、国の地域的な少額貨幣不足への対応策として考案された交換手段であり、

②徳川幕府による庇護の下で江戸時代300年近くの間、間断なく発行され続けたところにその特徴がある、と一般に理解されている。

 

ワークショップ「江戸時代における藩札の流通実態」の模様

藩札という紙幣が受容された背景をめぐって

金・銀貨という政府貨幣に代えて藩札という紙幣がなぜ交換手段として容易に受け入れられていたのかとか、国際比較から見た藩札の特徴をめぐっても、次のとおり活発に議論された。

諸外国における紙幣発行と比較すると、「フランス革命のアッシニア紙幣、アメリカのグリーンバック等、欧米諸国における紙幣は、戦時期に政府によって発行されるとともに、その後、大幅な価値下落を余儀なくされているのが一般的であるのに対し、わが国の場合、藩札は平時に発行され、概ね順調に流通しているといえよう。

なぜ日本においてのみ平時に紙幣が発行されたのか、日本だけが世界の中で何らかの特殊性を持つのか。

これらの諸点についても検討を要するのではないか」とのコメントがあった。

 

私(チキハ)の感想です。

山田羽書(はがき)を写真で見ると、よくわからない文字や、紋様が書かれています。

伊勢神宮に仕える有力商人発行と聞くと、有難いおふだ、みたいにも思えてしまいます。

なぜ日本では、金や銀と交換できない紙を、額面の価値があるとして使い回せたのでしょう。

通貨発行者を人々が信頼していた、そして裏切らなかった、と考えられます。

そのような基には、共通の通念のようなものがあったのかもしれない、と思いました。

日本人の特殊性でいえば、原発事故や金融機関の破綻などでも、責任者がトンズラしない、と聞きます。

海外では、金持って逃げてしまうらしいです。

紙幣が使われるには、和紙の切れにくく耐久性があるなどの技術や、難しくて読めない文字や紋様など、偽造しにくい技術もあったようです。

日本人は、新しい信用創造(個人、民間、地域の発行する、金や銀と交換できない通貨)が出てきても、責任の所在が明らかで、技術に信頼がおけたら、受け入れが早いかもしれませんね。

ビットコインなどは、「責任者がいないでしょ」と敬遠する声を聞いたことがあります。

よく見極めたいものですね。

藩札の経済学

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