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教養としての決済

『教養としての決済』(ゴットフリート・レイブラント/ナターシャ・デ・テラン、2022)

私は、決済について深く考えたことはありませんでした。

電子決済をすることが当たり前になったこのごろですが、なぜ手数料が引かれないのか、誰がそのシステムを保つためにお金を出しているのかそんなことをぼんやり考えるくらいでした。

おそらくシステムを利用している店が手数料を負担しているのだろう、その程度に思っていました。

それらに対するリスクについて深く考えたことはありませんでした。

 

<以下一部抜粋・要約>

金融システムの番人「FSB」と「BIS」

2020年の新型コロナウィルス感染症のパンデミックは、大規模な経済的打撃をもたらし、多くの個人的・商業的自由を抑制することになった。

平和で民主的な社会に暮らすことに慣れていた世代にとっては、以前なら考えつくこともなかったような形で。

私たちはそれでもお金を払ったり支払いを受け取ったにすることができたし、食べ物や燃料を買いに行くことができた。

では仮に、パンデミック以前で、個人的・商業的な自由はあるものの支払いが機能しなくなってしまうというシナリオを想像してみよう。

たとえ食料品を買う方法を見つけたとしても、スーパーマーケットは棚に商品を補充することができないだろう。

燃料費や交通費を払うこともできず、事業者は従業員や仕入先に支払うことができないだろう。

配給制や闇市、さらには戒厳令までもが復活するような事態になるのだろうか?

経済と社会が完全に崩壊するまでにどれぐらいかかるのだろうか?

幸いなことに、まさにこの問題に注力している機関がいくつか存在する。

金融安定理事会(FSB)は世界の金融システムを監視する国際機関である。

その使命は、国際金融の安定を促進することであり、ここしばらくの間は決済に目を向けてきた。

各国の中央銀行も、特にバーゼルに拠点を置く国際決済銀行(BIS)の活動を通じて決済を注視している。

 

これで充分なのか?

現在進行中の決済革命は、規制当局に極めて大きな課題を突きつけている。

 

新時代の石油、決済データの争奪戦

決済の社会性ーー送金はコミュニケーション?

バージニア大学メディア学部助教授のラナ・シュワルツは、お金と支払いをめぐる考察に多くの時間を費やしている。

ベンモは現在、アメリカの若者たちのお気に入りの決済手段となっており、小額の現金を互いに送り合うために広く使われている。

この無料アプリを通じて送金される額は、2012年に四半期あたり5千9百万ドルであったのが、2020年には四半期あたり約3百50億ドルにまで増加した。

しかしそれだけでなく、このサービスは、送金を、ティーンエイジャーたちの新たな交流の形にすることにも成功した。

ベンモのユーザは自分の取引を他の人々と「共有」(デフォルトでは他のすべての人と。

消極的な人なら、友達とだけ)し、自分がいつ、誰に、どれだけ支払ったかを他の人が見ることができるようにするのだ。

「ベンモは財布ではありません。会話なのです!」とシュワルツは言う。

ベンモいわく、この私的なデータの公的な共有こそが、同社の成長を加速させた魔法の材料なのだという。

ある意味で、この考えは基本に立ち返るものである。

お金は社会的な構築物であり、支払いは非常に社会的な行為なのだ。

シュワルツが「お金は記憶だ」と言うように、最初からお金はデータと結びついていた。

現金で支払うとき、私たちは対面して直接コミュニケーションを取るが、その取引は追跡不可能であり、したがって匿名である。

逆に電子的に支払いを行う場合、そのコミニケーションは厳格かつ人格と切り離されたものであるが、その「会話」の消せない記憶を記録を残すことになる。

ベンモのモデルは、支払いの会話を公開することにより、電子決済を再び人格と結びついたものにしているのだ。

収益を生み出す方法としては従来型のもの、すなわち第12節で取り上げたような取引手数料を採用しており、すべてのカード決済や企業の決済に3%の手数料を課している。

 

決済データからどうやって利益を生み出すのか?

決済データからは大金を生み出すことができると考え、「決済データは新たな石油だ」と持ち上げる人も少なくない。

それは正しいのだろうか?

もし正しいとしたら、お金ではなく、私たちのプライバシーで「支払う」ことが望ましいのだろうか?

 

アリペイとウィーチャットペイは、このようなウォレットからどのように利益を上げているのだろうか?

両者は、顧客の決済データを利用して、金融サービス、特に融資や投資信託を提供している。

私たちの決済データが利益を生む可能性のある方法は他にもある。

決済データのプロバイダーは、フェイスブックのモデルを真似て、顧客のデータを利用したターゲットマーケティングやターゲット広告を展開したり、サードパーティーがそれを行えるようにデータを販売したりすることができる。

 

決済データをめぐる今後の展望とハードル

グーグルによるゴールドマン・サックスの買収、というのは興味深い考えだが、一旦保留としよう。

データが実際にビジネスの燃料となる前に、いくつか対処されなければならない問題があるからだ。

第一に、規制の問題である。

『エコノミスト』誌が最近述べたように、「選挙で選ばれたわけではない、一握りの経営者たち」が私たちのオンライン上の会話に対して行使している権力については、すでに懸念が生じている。

ビックテックのプラットフォームは、言論の自由の境界線を設定することにますます力を注いでいる。

決済データを引き渡す前に、私たちが規制当局、あるいはその双方が、何らかの基準を設定するという形で、私たちが安心できるような約束を取り付ける必要があるだろう。

 

私(チキハ)の感想です。

便利だからと何も考えずに利用していましたけど、全部見られているんですね。

銀行なら、国の目が届いていますけど、一般の企業ではどこまで目が届くのか分からない、ということですね。

電子決済が機能不全になったら、なんて考えたことなかったです。

便利ですからこれからも利用は続けていくのでしょうけど、リスクがあることは忘れないでおきたいです。

お金の支払いは「会話」って、新しい感覚でした。

お金を通じて誰とつながっているのかな、と思うと支払いを意識するようになりますね。