『「見えない」巨大経済圏』(ロバート・ニューワース、訳伊藤真、2013)
先進国が衰退していき、新興国が台頭していくといわれています。
ここに書かれているのは、発展途上国です。
彼らは、先進国のような暮らしにはならないだろうと書かれています。
大手企業は、小売店ともいえないような店から、1パックずつを買っていく消費者にも、販売網を広げようとしています。
それは、彼らのような消費者が今後も増えると予想されるからです。
著者は、スラム街や、ストリートマーケットの住人たちに深く分け入って取材を重ねました。
「フォーマル」「正義」「合法的」ではない経済で生きている人は世界で18億人もいます。
<以下一部抜粋・要約>
訳者あとがき
著者ロバート・ニューワーズ氏は、哲学を学び、コミュニティー・オーガナイザーとして地域の住民活動に携わった後、ジャーナリストに転じた。
前著では、2年間にわたってリオデジャネイロ、ナイロビ、イスタンブール、ムンバイのスラム街に住み込んで取材。
スラムでも住人たちが自発的なコミュニティーを築き、賃貸住宅もあれば診療所もあり、ホワイトカラーの労働者も住んでいるといった、無法と無秩序ばかりではない大都市圏のスラムの実態を描いた。
本書に描かれる「インフォーマル」な経済の場合と同様、スラムを違法な無断居住地区として取り締まり、ただ撤廃してピカピカの街並みに置き換えれば済むものではない、と著者は問題を提起した。
続いて著者は、ブラジルのサンパウロ、パラグアイのシウダ・デル・エステ、ナイジェリアのラゴス、中国の広州などで4年間にわたってストリートマーケットの住人たちの間に深く分け入って取材を重ねた。
その結果が本書である。
ここまで「インフォーマル」と書いてきたが、従来「インフォーマル経済」や「地下経済」と呼ばれていたものを、新たに「システムD」と呼び変えるよう著者は本書で提案している。
著者ニューワースは、無免許、脱税などのシステムDの世界が持つ違法性を紋切り型の規制や取り締まりで払拭することを目指すのではなく、納税や登記に代わる何らかの形で公的負担やガバナンスを担保する方法を考え、「フォーマル」な経済とシステムDが連携できる道を探るべきだと主張する。
それは何といってもこの巨大な「見えない」経済圏が世界の労働者の半数にも及ぶ人々の雇用と生活を支えているからだろう。
第7章 最底辺の業者たちが最高なわけ
ポール・フォックスは慎重に言葉を選んだーー「その国の法律または財政構造がどのようであるにせよ、われわれは小売店の経済的自立を確かなものにしたいのです」。
フォックスはプロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の広報担当役員だ。
天才的な広報マンのご多分に漏れず、難しいことをやんわり伝える術に長けている。
フォックスはこう言いたいのだーーP&GはシステムDの重要性を認識しています、と。
小売店が法人か、政府に登記してあるか、納税しているか、あるいは何か手続き上の意味でを犯しているかなど、関心は無い。
そんなことにはおかまいなく、自社製品を仕入れてもらい、売ってもらいたいのだ。
システムDに対するP&Gの取り組みは、当時のチーフ・カスタマオフィサー、マリアノ・マーティンが南米へ転勤した10数年前に遡る。
初めて訪れた南半球での体験はマーティンのビジネス観を根底から覆した。
開発途上国に着任する以前のマーティンは、多国籍企業の多くが信奉する伝統的ビジネスモデルに何の疑念も抱いていなかったーー会社の未来は「業界の上層」、すなわち最大手の小売企業と組む方向へ登っていくことにあると固く信じていた。
アメリカではどこの街でもかつては家族経営の零細店舗が支配的で、開発途上国では今でもそれは変わらない。
しかし大企業が「業界の底辺」と呼ぶ零細事業者は、従来のビジネスモデルでは「おまけ」ですらなく、相手にさえされなかった。
「家族経営の零細店舗はいずれ消えてなくなると考えられていたのです」とマーティンは言う。
だが南米に暮らし、欧米諸国とは異なる人々の暮らしを目の当たりにしたマーティンは、思いがけない事実に遭遇した。
第一に、P&Gの優良顧客である小規模手小売店の多くは、実は小売店とも呼べないしろものであったこと。
中には自宅の居間に窓口を設けて店舗に仕立てたものや、舗装もされていない道路の路傍に立つ粗末な店舗もあった。
P&Gのような巨大企業なら、こうした店舗は重要な顧客市場とみなす価値がないとして切り捨てても不思議はなかった。
しかし市場調査を行うと、辺地の零細店舗について驚くべき事実が明らかになった。
開発途上国では人々は零細な小売店に何度も足を運び、そのたびに1つの商品を1パックだけ買って帰ることが多い。
「そうした消費者は実に週に5.5回も店を訪れるのです」。
調査結果が言わんとする事は明らかだったーー商品も特大の箱で販売する大型店と異なり、片田舎の零細店舗は、消費者との間に深い関係を築くチャンスを与えてくれる。
市場調査の統計数値は他のことも物語っていた。
マーティンは言うーー「消費の伸びは、今後は開発途上国が大半を担うでしょうし、こうした市場では大規模店舗が主流になることはないでしょう」。
私(チキハ)の感想です。
しなびた人参を売って小銭を得ようとする女性、その人参はどこから手に入れたのだろうか。
夜明け前には散り散りに去ってゆく、闇取引の人たち。
ここに描かれるのは、それらの人たちのたくましさだ。
日本だって、戦後の闇市があったことくらいは知っている。
私の小さい頃、商店街には活気があった。
その後数十年は、大型店舗や、チェーン店が増え、大企業が利益をあげた。
そして、今は、会社に依存する働き方は終わろうとしている。