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中央銀行発行の暗号通貨

『デジタル円』(井上哲也、2020)

<以下一部抜粋・要約>

 

なぜいま「デジタル円」なのか

デジタル時代に即した支払いや決済手段の提供

現在、家計や企業が「キャッシュレス」で支払いや決済を行う上で使用できる手段は、さきに見たように銀行預金や、それに紐付けられたクレジットカードやデビットカード、あるいはお金をチャージした電子マネーなどである。

これらは最終的には銀行預金を用いて決済されるが、その銀行預金も民間企業の負債に過ぎず、したがって、発行している銀行が破綻した場合には価値が喪失するリスクを抱えている。

 

一方で主要国では、インターネットを用いた電子商取引が急速に拡大し、このため、こうしたデジタル経済に即した支払いや決済の手段に対するニーズは拡大し続けてきた。

そこで既存の金融機関とは異なる民間業者が暗号技術を含むIT技術を活用しつつ相次いで導入した「暗号通貨」に対しては、そうしたニーズを満たすことへの期待が集まった。

しかし、価値の極めて大きな変動や、取扱業者における不正やセキュリティーの不満などの問題のために、結局のところ支払いや決済の手段としての役割を果たすことができず、主要国の金融当局による「暗号資産」としての再定義のもとで、1部の投資家による投資手段として活用されるに止まっている。

 

近年の「暗号資産」の中には、特定国の通貨と一定の比率での交換を約束することで価値を安定させ、信任を高めることで支払いや決済の手段としての活用を図る動きも見られる。

もっとも、こうした「ステーブルコイン」の場合も、「暗号資産」の発行業者がいわば「勝手に」既存の通貨との関係を保障しているだけで、裏付資産に対する監督の欠如も含めて、その実効性には問題も残る。

 

金融サービスに対するインフラの提供

安全性と効率性を兼ね備えた支払いや決済の手段に対するニーズは、金融機関を含む民間業者のイノベーションやそれをめぐる競争によって対応することも理論的には可能である。

主要国では、「キャッシュレス化」に対する政府の助成策もあって、IT企業や電子商取引の提供企業のような新規参入者を含めて、多様な民間企業がデジタルベースの支払いや決済の手段を提供し始めていることはーー現時点では、それらの多くも銀行預金に紐付けられている点で現在の金融システムの範囲内の動きではあるとしてもーー将来に向けて様々な可能性を感じさせる。

 

寡占や独占の状態を手に入れた民間企業は、それまでの競争に費やしたコストの回収を含めて利潤の最大化を図ることになろう。

その時点ではまさに「ネットワーク外部性」のために他の主体による新規参入の後脅威は低下している点で、競争を勝ち抜いた企業は、ユーザーから高い利用料を徴収しうる状況になっている。

このように、家計や企業の利便性は結局のところ損われるリスクがあるだけでなく、金融システム全体として見ても、競争に敗れた主体のシステムは価値を失う点で効率的とはいえない。

この問題への対応策の1つとして、中央銀行が公的なインフラとしてデジタル通貨を発行することが考えられる。

中央銀行が少なくとも銀行券をデジタル通貨によって代替するだけでも、民間企業によるイノベーションの促進につながることに注意する必要があろう。

 

本書の想定するデジタル通貨

本書でこれから議論する中央銀行デジタル通貨のイメージを明らかにしておきたい。

本書では、家計や企業が経済活動を通じて行う支払いや決済に使用できるデジタル通貨ーーこの領域の文献では「一般目的型」と呼ばれるものを念頭に議論する一方、民間金融機関同士あるいは民間金融機関と中央銀行との支払いや決済に使用するデジタル通貨ーー同様に文献で「大口型」と呼ばれるものには、必要に応じて言及することにする。

「大口型」ではスマートコントラクトを活用した証券決済との効率的な一体化や、クロスボーダー取引における他国のデジタル通貨との相互接続といった重要な論点が存在する。

実際に、日本銀行を含む主要国の中央銀行は「大口型」の実証実験を先行的に行って、強化に向けた様々な成果を得ている。

「一般目的型」に焦点を当てて議論するのは、その導入の背景や導入に伴う課題と影響が、家計や企業による経済活動を含めてマクロ的な意味合いを持つだけでなく、銀行預金の機能やそれを用いた金融仲介のあり方と商業銀行のビジネスモデル、さらには金融システムの安定や金融政策の波及といった経済政策のあり方まで含めて、極めて大きな変化をもたらし得るからである。

「一般目的型」の導入には事前に様々な課題を解決しなければならないので、複雑で発達した金融システムを有する日本のような主要国にとっては、実際の導入までに相応の時間を要する。

 

私(チキハ)の感想です。

ここにはっきりと書かれているように、私たちが預けている銀行預金は、銀行の負債なのです。

そしてその預金を貸し出して利益を得ています。

危うい商売といえばそうです。

そして私たちの利用しているキャッシュレスの支払や決済は、この銀行預金に紐付けられているのです。

 

中央銀行が「公的なインフラ」として、デジタル通貨を発行することが考えられる、と書かれています。

デジタル通貨が一般に使われるようになるときは、段階を経ての移行になりそうです。

まず支払いや決済として使われます。

その後で、銀行預金に代替されていきます。

「すべての金融仲介が市場ベースになるか、あるいは中央銀行自身が金融仲介を担うかのいずれかが必要になる。

前者は中小企業向けの与信などにおける情報の非対称性を考えると無理があり、後者も非効率な資源分配を招くリスクが大きい」

このように書かれていて、銀行の業務は大きく様変わりします。

 

少し話は変わりますが、テキサス州でデジタル金貨が発行されます。

ドルではなく、100%金に裏打ちされたデジタル通貨です。

Twitterでの意見です。

藤原直哉 on Twitter: "テキサス州が予定通り9月1日にデジタル金貨を出すことは米国の分裂で米ドルはデジタル金貨に対しても大暴落。するとデジタル金貨を与えられた州民は、米ドルで借りている住宅ローンなどの返済がタダ同然になる。事実上の徳政令。デジタル金貨はテキサス州と組合を作った州の国民にしか与えられない。す…" / Twitter

 

デジタル円: 日銀が暗号通貨を発行する日

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