『暗号通貨vs.国』(坂井豊貴、2019)
国家が決めたお金(法定通貨)を使わなければ、戦争は起きない。
<以下一部抜粋・要約>
危険なキャッシュレス
中国には国家情報法という、監視や検閲が柔軟にできる法律がある。
中国共産党はモバイル決済の利用記録を自由に利用できる。
自分たちに批判的な人間がどこで何を買い、どこへ移動しているのか、利用記録から把握できる。
これは嫌なことでは無いだろうか。
慣れたらイヤだと感じなくなるのかもしれないが、飼い慣らされただけではなかろうか。
おそらくは暗号通貨の熱心なファンは、そのような自由の喪失を嫌うものだ。
モバイル決済が主流の社会では、アカウントが利用停止になると経済活動から締め出される。
中国では習近平・国家主席を批判する文章を何度かSNSに書き込むと、アカウントが停止されるという。
アリペイもテンセントも民間企業だ。
アリペイの創業者ジャック・マーは時価総額50兆円に及ぶ企業を築いたことで英雄視されてもいる。
だがジャックが成し遂げたことには、電子マネーのアカウントを通じて、中国共産党に国民管理の新手法を与えたことも含まれる。
暴力と反戦
実のところビットコインと反戦には関わりがある。
もしビットコインが主流の通貨になると、国家は戦争を実行するのが難しくなる。
戦争には巨額の費用がかかり、それは通貨の増発や国債の発行で賄われることが多い。
法定通貨の価値が低いと、そうやって戦費を調達するのは難しくなる。
言うまでもなく国家はビットコインを増発できたりはしない。
国家に通貨の発行を任せるから戦争が起こるのだ。
P2Pの世界通貨
銀行のような第三者を介さず、現金のように人から人への直接的な移転ができること。
国内も国外も関係ない。
しかも現金と異なり、物理的な移転を要さない。
銀行間の決済システムもスウィフトももはや必要ない。
人から人への直接的な移転をピア・トゥ・ピアという。
P2Pと記述することが多いので本書でもそれにならう。
クレジットカードやSuicaを始めとする電子マネーはP2Pではない。
人から人への「直接的な」移転ができないからだ。
若きヴィタリクの情熱
ヴィタリクと彼の仲間は、1つの大胆なアイディアを着想した。
それがイーサリアムだ。
イーサリアムとはスマートコントラクトという仕組みを、アプリケーションとして乗せられるプラットフォームだ。
つまりビットコインと違って通貨のための仕組みではない。
スマートコントラクトとは、ルール発動の条件が整うと自動的に取引が実行される仕組みだ。
これは自動販売機を想起するとわかりやすい。
お金を入れてボタンを押すと、即座に飲料が出てくる。
お金と飲料の交換が、瞬時になされるのだ。
イーサリアムはここの自動販売機ではなく、自動販売機を置く広場のようなものだ。
サービスの提供者はSolidityというプログラミング言語を使って、自動販売機のようなスマートコントラクトの仕組みを作る。
それをイーサリアムの広場に置く。
そのような広場を誰でも使えるようよう作るというのだから、イーサリアムの目指すものは壮大だ。
暗号通貨イーサ
イーサリアム上の基軸通貨は「イーサ」(ETH)という。
面白いのは2000ETH =1BTCと、ビットコインを通貨としたことだ(ビットコインの実用例)。
イーサはビットコインと性質がかなり異なる。
ビットコインはそれ自体が通貨という目的であるのに対して、イーサはイーサリアムという目的の部品だ。
イーサは、イーサリアム上のアプリケーションの中で、スマートコントラクトを実行する手数料として働く。
この手数料は「ガス」と呼ばれ、ブロックチェーン上で取引を処理するマイナーに支払われる。
処理には約12秒で済むので、約10分のビットコインよりずっと速い。
ビットコインの熱烈なファンであるヴィタリクは、もちろん銀行や政府が決済を処理する仕組みを好まない。
トークンによる資金調達
イーサリアムは、これまでにない集団行動の取り方を可能にするかもしれない。
例えば投資ファンド。
ここで、プロにお金を預けるのではなく、出資者が投票で投資先を決める仕組みがオンラインにあったらどうだろう。
そのような仕組みがDAOである。
和訳すると「分散型自立組織」であろうか。
DAOは人々が分散したまま集団行動をとりやすくする仕組みであって、組織ではないのだ。
16年4月末、スロックイット社というスタートアップ企業が、DAOをイーサリアム上に立ち上げることを発表した。
前節で解説したようにイーサリアムには、スマートコントラクトの仕組みが備わっている。
DAOはその実用の先駆けであった。
ただしDAOを作り上げるには資金がいる。
そこでスロックイット社は、DAOトークンというDAOの中で通用するデジタルコインを発売することにした。
返済不要の資金調達
このように、事業を進めるためにトークンを発行して資金を集めることを、ICO(イニシャル・コイン・オファリング)という。
現在、中国と韓国ではICOは禁止されている。
日本では禁止されていないが、金融庁は注意を喚起しており、規制が強化される様子だ。
非国家と社会契約
分権的な暗号通貨作りは、1つの社会づくりのようなものだ。
そこには様々な人間がいて、運行をめぐって意見が分かれる。
事件が起こると誰かが対処せねばならない。
16年6月17日、スロックイット社が調達したイーサが、DAOの資金を管理するコードのミスが突かれて流出したのだ。
ブロックチェーンの社会契約
18世紀に人民主権論を打ち立てた思想家ジャン・ジャック・ルソーは社会契約論の中で、自由な人々が共同の利益のために合意して作った社会こそが、正当だと論じた。
もともとのイーサリアムが分裂し、各人が自分の好む方に参加するのは実はルソー的だ。
国家は領土の中で暴力を集中管理している。
この領土の縛りは大きくて、自分と隣人とは、同じ国家に属さざるを得ない。
だが通貨は一度電子の形態を持てば、領土のような物理的な実態に制約されない。
自分と隣人とは、それぞれ別の通貨コミュニティーに属せば良いだけだ。
世界で共通の通貨があれば便利である。
ビットコインにそれが期待されることもある。
だがビットコインが切り開いたのは、むしろ各自が好む通貨を自由に選び取れる世界だ。
私(チキハ)の感想です。
クレジットカードや電子マネー、Suicaなどは、現金のように人から人へ移転できません。
暗号通貨は、それができる、そこが大きな違いと言えます。
日本人では暗号通貨を利用していない人がほとんどです。
通貨とは、交換の媒介であるというのには異論はないけど、尺度として機能すると思います。
安定した物価は、私たちが円を使う理由の一つです。
DAO(分散型自律組織)は夢があると思います。
いまの自分がそこに入り、意思決定に参加することを考えると、自分はあまりにも未熟だと感じます。
しかし、他人任せにしてきた結果が今の世の中を作ったのだと思うとそうも言っていられません。
「お隣さんと同じ国家に所属しているが、参加する通貨コミュニティは違ってもよい」
物質は同じ空間にあっても、意識は同じ領域にない、最近ではその思いは強くなっています。
話は少し変わりますが、通貨に価値を持たせるには?