目の前に広がっている田んぼが、私が担当するところ。
小学校の裏手になる。
玄米約120キロ収穫予定だ。
私は年間に約60キロ食べるのだが、張り切っている、たくさん作りたい。
面積は4R(400平方メートル)で、420平方メートルのバスケットコートくらい。
無農薬の米を作るのだ。
初日、主催のガヤマファームさんから説明を受けた。
田植え後の1週間目の除草が一番大切なのだ。
この時に取り損ねると、後での除草は、クワで刈り取るような大変な作業になる。
金のイヤリングがやけに光っている。
軽くパーマのかかった髪にも金の筋が入っている。
地味な作業着だけでは嫌なのだ。
まだ、モテたいのか。
いや、そんなつもりでは無いと、思う。
元教師なのだ。
「高校で英語を教えていたんです」
「ほえーっ」と、中年女性らが声を上げた。
そんなことでうろたえているところをみると、オーナー制度説明会のときの自己紹介を聞いていないんだろうか。
私が、ヒマなんだろう。
アーカイブで3回くらい聴いた。
目の前のガヤマさんは、一人ひとりに自己紹介をさせて、しっかりと目を見て(私はあなたを信用しています)受け応えをしていた。
説明も丁寧で、女性に人気が出そうである。
こういう人の奥さんは、疑心暗鬼になりうる、などと余計なことを考えているうちに、作業の説明は進行していった。
いつもこんな調子で、人の話を聞くとき内容が抜けてしまうのである。
しかし、予習をしてきているので、対策は万全である。
ザマミロである。
誰に毒づいているのか、虚しく虚空を眺める。
虚空を眺めている間に話は終わった。
除草は、中野さんが発明した除草機で泥の表面をこするようにして、ヒゲ根の伸びかかった雑草の種を水面に浮かせるのだ。
大した事なかろう、そう思った。
ま、思いのほか大変だった、というくらいだろう。
そうなのである、なめきってるのである。
あまり詳しくは書かない。
残ってしまった部分を、私の高速の情報処理で計算して、作業工程を半分にはしょり、終わらせる。
そう計算では、そうなるはずであった。
少しあぜ道でも歩いて、残りをやろう。
一周して除草機を持つと、なぜだか田んぼに入らずに、用水路で洗い出した。
なにをしているのか、わからない。
長靴まで洗い出した。
「今日は、終わりでいいんじゃない」誰に話しているのだ。
今日で全てやり切る工程だ。
どうするつもりなのか。
「このままだと、だらしないやつだと思われるけど」けどなん何んだ。
「安心パックだから」それは、ずいぶん前に「腰が痛いから」と言って帰った「アタシ2R」のミセスの言い草だ。
今年初めての人は、危ないときは宜しくお願いします、コースに入っているのである。
脳裏に、忍耐強そうなガヤマさんの面影が浮かんだ。
そうなのだ、元教師は、きっと、全てをお見通しなのだ。
私は、ガヤマ作業場に戻った。
机に置いてある自分のシートに、来ましたのシールを貼り、進捗状況を分かりやすく記録した。
誰もいない作業場に置いてある自転車に無言でまたがる。
「明日、もしか来れたら、来るかもしれない、分からないけど」そう内心で言うのだが、開放感がいかんともし難い。