一言一句を書きながらこれは先生の考えだと気付いた。
考え方や物事に向き合う姿勢が他の人と違った。
少しずつ自分が真剣になっていくのを感じた。
胸がしめつけられるようになった。
窓の外を見ると、遠くに山が見えた。
「わたくしには、手のとどかない人」
湿った灰色の空気が私を包むようだった。
ある日、雲の切れ間から光が差し込んだ。
それは閃光。
「その山にむかって旅に出たら、歩き出してみたらどうなのかしら」
その発想自体先生のものだった。
呼吸をした。
今生でたどり着けないと思った。
「それならそれでいい」
よけいに胸が高鳴った。
瑠璃光は可能性と憧れ。
先生の後ろ姿を思い出していた。
歩き出す。
「近づいてゆくわ」
そして未来にはきっと。
とし子(60)