ユタカ2イキルオテツダイ

ほんの少しずつ、ゆたかになってゆきましょう

短編小説

車椅子の男

車椅子の男 抑揚がない女の声が流れている。 スピリチュアルな教えのようなもので、こうしなさいと方向を示す内容だ。 車椅子の男がいる。 女の声は男の膝の上に置かれたスピーカーから流れているのだから、男はそれを広める目的なのだろう。 駅の入り口は多…

鈴之助

甘党 「地中埋設物の存在を知っていながらその事実を告げずに土地を売却した場合、売主様に「瑕疵担保責任(契約不適合責任)」が問われます」 私はため息をついた。 自分には何かが足りないとは感じているのだが、あの鈴之助が私を超えていることが素直に認…

恋の継続方法【エミーの場合】

恋の継続方法【エミーの場合】 白いフワフワのスカートはエミーのお気に入りだ。 お花畑も彼女のお気に入りの場所だ。 エミーがそのお気に入りの場所にいると、どこからともなく白い馬に乗った男性が現れる。 エミーは驚くと共に少しの期待を持っている。 白…

恋の継続方法【とし子の場合】

一言一句を書きながらこれは先生の考えだと気付いた。 考え方や物事に向き合う姿勢が他の人と違った。 少しずつ自分が真剣になっていくのを感じた。 胸がしめつけられるようになった。 窓の外を見ると、遠くに山が見えた。 「わたくしには、手のとどかない人…

鈴之助

司法書士を囲む 鈴子は「13:25着でぎりぎりになっちゃうので、早めに行ける人はジーちゃんち入って待っててもらえると助かります~」とラインしてきた。 鈴之助は、応答なしだ。 私がバタバタと部屋を片していると音もなく玄関が開く。 「誰」 「わたし」 「…

鈴之助

鈴之助 12年ぶりに会った。 鈴之助は髪をなびかせた。 サラサラの髪は背中の真ん中あたりまで伸びている。 まつ毛が長い。 肌は透き通るように白い。 20歳をとうに過ぎているのに声が高い。 鈴之助はリンノスケと読むのだ。 鈴之助の祖父の亡骸は、白い布団…

【ごく短小説】パワートランジスタ

「それで僕は何をやればいいんです?」いつもは俺と言ってるけどこういう時は僕と言うことにしている。彼女は、目の奥の方で頭脳が 回転している。頭のいい人の目だ。「 失礼ですが」彼女は やや低めの声で 言った。 「 何をしたいんですか」 3秒ほど迷った…

【ごく短小説】2人の男

2人は同じような紺色のスーツを着ている。細身でやや背は高い。 Aは 突然言い出した。 「お前のせいで俺の人生は台無しだ」 Bは反射的にこう応えた。 「それはいったい何を意味しているんだい」 「お前がチクったせいで 、あの女 俺から離れて行ったんじゃ…

【ごく短小説】葉の裏に産み付けられた卵の行方

彼はローカル誌の記者をやっている。 時々、封書が届くことがある 。痴話喧嘩のてんまつや、小さな事件のタレコミだ。 彼はまたそんなことだろうと思って 封を開けた 。クラシカルな 字体だった 。 しかし、その内容は 衝撃的なものだった。 初めまして。 私…

【ごく短小説】赤い星

「クソッたれ、やってらんねーよ」 紅茶みたいな色をした 星にスピードを上げて近づいた。 もう方向転換をする余地がなかった。 同じ大きさの星は いくつもあって、 それは色とりどりだった。 もう少し スローだったら 緑や 青の星を選べたのに。 よりによっ…

【ごく短小説】僕らのブルーハーツ

それは異様な光景だった。 僕は体育館の隅でその様子を眺めている 。 ステージの上では校長が ブルーハーツの「リンダリンダ」を熱唱している。 その次へ。 その次へ 行くはずだったのだろう。 だが、 あまりにも 純粋すぎた。 4 そこまで読むと僕は残りの …

【ごく短小説】アンジェラ

「前回は3月でしたね」 と 美容師は言った 。 「3ヶ月も経ちますか」 ボサボサの頭を 申し訳なく思いながらわたしは言った。 「 1年3ヶ月ですよ」 わたしは言葉を失った。 そんなことがあるのかと思った。 毎日仕事に追われていた。 いつのまにか夫が生活費…