ユタカ2イキルオテツダイ

ほんの少しずつ、ゆたかになってゆきましょう

鈴之助

甘党

 

「地中埋設物の存在を知っていながらその事実を告げずに土地を売却した場合、売主様に「瑕疵担保責任(契約不適合責任)」が問われます」

 

私はため息をついた。

自分には何かが足りないとは感じているのだが、あの鈴之助が私を超えていることが素直に認められない。

建物を取り壊して更地にする、という行為の中にリスクがあるなんて深く考えもしなかった。

鈴之助は、リスクを探したのだろうか。

「民法をもっと学ぶ必要があると思っているんですぅホホホ」

「いえいえ、まだ行政書士なんですよぉ」

不動産屋にそう言った鈴之助は. 地面から5センチは浮いていた。

 

昨日は忙しい日だった。

お墓に父の骨を収め、そのあと父の家に行き、電話の引き込み線回収と、不動産屋と出張買取の業者の説明を聞く流れなのだ。

お墓に行くと石屋がてはずを整えていたので、私たちは花と写真と位牌を飾って線香をそえて、手を合わせた。

納骨はあっけなく終わった。

 

皆でテーブルを囲み「大京」から持ち帰った寿司とオードブルで会食となった。

鈴之助はいつものお気に入りの席に座った。

背もたれの無い方のサイドのソファだ。

鈴子は仕切るタイプのようで、いつも真ん中にいる、それは実際の場所というよりもエネルギー的に真ん中なのだ。

そして背もたれのあるソファに鈴子のパートナーが座っている。

その横で鈴子の娘のアンが飛び跳ねている。

私は鈴子の横に座った。

「ではいただきます」

鈴之助は言うとゴマ団子に手を伸ばした。

「いきなり、ゴマ団子なんだ」

わたしは思わず口にする。

「ゴマ団子を温かいうちに食べないのは罪なんですよぅ」

鈴之助はやや首を傾けておしとやかに食いちぎった。

寿司に手を付けず、周りの人に配慮もしない行動におどろいたが、鈴子もパートナーも気にしなかった。

今日はこのキャラなんだと思ったが、普段彼らに見せているのがこの姿ということなのだろう。

アンは半分食べてあきてしまった。

子供らしく落ち着きがないので、自然と大人の注意を引く。

ひときわはっきりとした声で「じいちゃんとばあちゃんのところへ行きたい」と言う。

「え」

私は、一瞬亡き父と母のところかと思ったが、どうやら、鈴子のパートナーの両親のところだということが分かった。

そうだ、私の父と母はアンにとって、ひいじいさんとひいばあさんになるのだった。

「くっくっくっ」

と声がした。

見ると鈴之助が背中を丸めて、寿司をほおばりながら笑っているのだ。

長い髪が少し乱れていて、白い顔とひきっったような笑いがいささか不気味である。

甘党で、大食い、運動をしないのに痩せている。

あー、はいはい、そーだね、など鈴子の声とアンの声と鈴之助の声と、私の声にならない声と、パートナーさんの油ものが最近食べられないよの声。

 

写真たての花嫁は、とても美しかった。

「これは、おかあちゃんだ、このときすっごく奇麗だったんだよ」

私は言って、振り向くとおかあちゃんと同じ顔をした鈴之助の顔があった。

鈴之助と鈴子は小さいころ、私の姉のことをおかあちゃんと呼んでいたし、わたしもその呼び方が親密な感じがして二人の前ではそう呼んでいる。

「左右対称で、鼻筋が通って、もともと美人なんだよ」

私は白い顔の鈴之助に言った。

「では、なぜ」

鈴之助は顔面をこわばらせた。

パートナーさんの気配がこちらを見た。

鈴之助の母親は、化粧をしないし髪の手入れもしない. 着る服も無頓着で体型にも気を使わない。

鈴之助はそんな母親の姿が悔しい。

私はいまでこそ、その理由を説明できると思うけど、説明しても鈴之助の心には届かないような気がして、言わなかった。

身だしなみや化粧をするのは、他人のため。

自分の中の内神様のため。

そして自分を愛するため。

 

ではなぜそのことに気が付かないのか、「それは、感性の問題だ」。

 

もう20年くらい前になるだろうか、司法書士に30分5000円で相談をしに行ったことがあった。

義母は、私が彼女の借金を払うと、また繰り返し借りていたことが分かったのだ。

借金返済の相談はいつしか「借金を繰り返す義母を見捨てれば、死んでしまうかもしれない、だが、どうしてよいのかわからない」そんな内容になっていた。

そのとき司法書士は「死ねばいいじゃない」と言った。

「こっちは一生懸命やりますよ、でも、ありがとうもないんでしょ。ではやる意味がないじゃない。それは、感性の問題だ」

私は、半分納得をして、でもまだ助ける方法はないのかと渋りながら、時間になってしまった。

私のそんなそぶりに、そっちへ行ってはダメだとでもいうような眼差しをして「何かあったらまたいらっしゃい」と言って、すっと立ち上がりうながしてくれた。

私は家に帰り、自分の母親の不始末を処理しなければならない夫に、その話をした。

司法書士が言うのだ。

だから夫も自分の親を見捨てる踏ん切りがついたのだ。

 

鈴之助は、肉親のトラブルを中学を卒業するころから背負っていた。

自分の両親に依存され、祖父母に依存されて自分の人生がなくなっていた。

優しさと、弱さと、執着と、憎しみにさいなまれ、芯の強さと、正しさと、愛が、彼の中であがいている。