『キャッシュレス覇権戦争』(岩田昭男、2019)
<以下一部抜粋・要約>
現金の壁を突破せよ!
2018年、静岡県三島市の商工会議所が主催したキャッシュレス決済に関する講演会に呼ばれて話をすることになった。
私が行く前から、最新の決済ツールは、サービス提供会社に払う手数料が入らないらしいと話題になっていたのだ。
「中国の屋台では、QRコードを印刷したビラを貼ってあって、お客がそれをスマホで映して買い物を終えている。
そうした場合は、手数料がかからない」彼らはこうした情報を既に知っており、自分たちでも導入したいという機運が高まっていたのだ。
クレジットカードやカードや電子マネーを導入すると、各店舗は3%から7%の加盟店手数料をとられてしまう。
それで儲けがなくなると言って尻込みするのである。
ということは、逆に手数料のかからないツールなら大歓迎なのだ。
スマホ決済ーー百花繚乱のQRコード決済
スマホ決済サービスでにわかに注目されているのがペイペイを始めとするQRコード決済だ。
日本では、オリガミペイや楽天ペイといったところがいち早く開始した。
また、話題を集めている中国のアリペイやウィーチャットペイもこの方式だ。
決済方法に、消費者がコードを提示し、店がスキャンするタイプと、販売店がコードを提示し、ユーザがスキャンするタイプの2つがある。
基本は銀行口座からお金を引き落として使う即時決済だが、あらかじめチャージした残高から支払うプリペイ、クレジットカードと紐付けたポストペイにも対応する。
現金の出番はなくならない
これから考えられるキャッシュレス化のシナリオは、QRコード、決済と電子マネーの2つがうまく棲み分けていくだろうということだ。
クレジットカードを頂点にして、大手や中堅を含めた販売チェーンは、クレジットカードと電子マネーが使える共用端末を設置してキャッシュレス化を進める。
そうした店とは一線を画す形で、個人商店など、小規模の店が、QRコード決済を取り入れていく。
そうすることで、日本のキャッシュレス環境は、格段に進化するだろう。
キャッシュレス社会はアメリカで始まった
クレジットスコアとは何か?
戦後になって、金融工学を駆使して、本格的なクレジットスコアを編み出したのが、アメリカのベア・アイザック・アンド・カンパニーという会社だ。
現在は、大手信用情報機関から集めた情報をもとに、同社が作成するクレジットスコアである「SICOスコア」が、アメリカを中心とした世界各国の金融機関や企業に利用されている。
スコアの算出方法はブラックボックスに隠されているが、調べてみると、特に5つの要素に注目しているらしいことがわかった。
- 返済履歴:35%
- 与信総額に対する利用総額の比率:30%
- クレジット履歴の長さ:15%
- ローン利用の実態:10%
- 新しいクレジットカードを作ったか:10%
借り手の返済実績を特に重視しており、所得や資産は直接的には控除されていないのが特徴である。
年収が高いから、スコアの点数が高いとは必ずしもならないのだ。
格付けされる消費者たち
さて、クレジットスコアは、利用者の信用度を850点満点で数字化している。そしてこの数値によって消費者はランク分けされており、そのランクによって様々な有利/不利益を受けることになる。
信用格差社会の誕生
かくして、このクレジットスコアが登場したおかげで、アメリカでは、クレジットカードと銀行の金融商品が結びつき、様々なビジネスが生まれ、繁栄した。
同時に、クレジットカードの利用を下にした信用格差社会が構築されることになった。
そして、クレジットカードの使い方次第で、人生が左右されるという人類史上はじめての状況が生まれたのだ。
キャッシュレス先進国に躍り出た、中国
アメリカのクレジットスコアを“進化”させたゴマ信用
中国にスマホ決済をもたらした若手起業家たちが、次に目をつけたのが、前章で触れたクレジットスコアだった。
自分たちで中国版クレジットスコアを始めようと考えたのだ。
中国政府が推進する「社会信用システム」
住所は、年齢、学歴、職業等は、中国政府が保有しているデータで、前述したように、中国では、スマホが身分証がわりになっているので、アリペイを使ってスマホ決済をすれば、ほぼ自動的にゴマ信用に紐付けされる。
他にも中国政府や地方行政が保有している様々な個人情報がゴマ信用に流れているともいわれる。
「信用スコア」の衝撃
6ランクに分けてスコア診断する。Jスコア
中国で社会インフラにまでなっているゴマ信用を紹介したが、いってみればJスコアは、ゴマ信用に融資機能を加えたサービスである。
Jスコアは、フィンテック導入に積極的なみずほ銀行とソフトバンクの合弁会社、J .Score社が運営するもので、「国内初のスコア・レンディング事業」と謳っており、AIを使って個人の返済能力を診断し、融資を決定するという。
ソフトバンクの本当の狙いとは?
「データ企業」を目指すヤフー
ヤフーは、『週刊ダイヤモンド』川邊健太郎氏を新社長に据えて「データの会社になる」というスローガンを掲げた。
ここでクローズアップされるのが、ソフトバンクとヤフーによる共同出資という形で始められたスマホ決済サービスの「ペイペイ」だ。
「信用スコア」に「キャッシュレス」の組み合わせとくれば、誰もがアリペイを思い起こす。
孫氏が、今最も力を注いでいるのが「キャッシュレス覇権」を握ることであると、巷間伝えられている。
そして、信用格差社会へ
ソフトバンク(ヤフー)、ドコモとくれば、もう一つ、携帯キャリア大手KDDI (au)の動きが気になるところだ。
KDDIは2018年11月、楽天との提携を発表。
2019年10月に携帯電話事業に本格参入する楽天に通信回線の1部を貸し出すことになった。
その見返りとして、4月からスタートさせるスマホのQRコード決済サービス「au ペイ」に、楽天のネット通販のプラットフォームや加盟店、物流サービスを活用することが可能になった。
これによって、携帯キャリア大手3社は、通信のほかにQRコード決済とeコマースをそれぞれの形で事業として取り込むことになった。
今後、楽天を含めた携帯キャリアが、日本におけるプラットフォーマーとしてしのぎを削っていくことが予想される。
そうなれば、携帯キャリアが信用情報機関として中心的役割を担っていく可能性がある。
返済履歴などにプラスして、趣味嗜好や物の考え方、普段の素行、社会的な行動といった個人の生活全般までスコアリングが及ぶとなると、話は違ってくる。
ブラットフォーマーが国民を格付けし、その格付けによって富める者と貧しい者の差が広がっていく。
信用格差社会の出現だ。
パンドラの箱はすでに開けられてしまったのかもしれない。
私(チキハ)の感想です。
私はQRコード決済を利用したことがないのですが、チャットGPTに聞いてみたら、イオンモール利用者の6割が(2021年)QRコード決済を利用していると言っていました。
驚きました。
ペイペイ、LINE ペイ、ゆうちょペイ、が上位に来ると言っています。
ネットで検索すると(2022年)、ペイペイ、d払い、楽天ペイが上位という集計がありました。
便利だからと使っていると、自分の情報が取り込まれて利用されているのだ、と思うと尻込みしてしまいます。
それに対抗する動きも出てきています。
以下のように書かれています。
ブラットフォーマーである、GAFAは膨大な個人情報を収集している。
Facebookへの情報流出問題は、Facebookが収集したデータについて、IT企業を中心として約150社にアクセスを許可していたとNYタイムズが報じた。
こうしたGAFAに対抗する動きが欧州で始まっている。
それがGDPR(一般データ保護規則)だ。
Appleのティム・クックCEOは2019年1月16日付の米「タイム」誌に寄稿し、「個人データを扱う企業は米政府が規制すべきだ」と主張した。
改めて取り上げると、GDPRの根底には、企業の意のままにされている個人情報を、利用者の手に取り戻そうという意思がある。
GDPRが施行されてからGAFAなどのプラットフォーム企業は対応に追われている。
そのうち、日本でも様々な動きが出てくるはずだが、この規制が周知されて「自分の個人情報は自分で守る」という意識が強くなることが望ましい。
おそろしいのは、プラットフォーマーと国家権力が協力して強制力を持つことですよね、中国のように。
プラットフォーマーや、政府の握る情報による社会と、それを規制する働きは今後も行われていくのだろうと思います。
注意していきたいところです。