『グローバル経済の誕生』(ケネス・ポメランツ、スティーブン・トピック、2013)
<以下一部抜粋・要約>
米国は、資本と生産物がいかなる制約も受けることなく、自由に動き回れる体制を築くために、最も重要な政治的役割を果たしているが、世界最大の貿易・財政赤字国に陥っている。
だからといって、グローバリゼーションを賛美する新自由主義に対する熱狂が下火になる可能性はあるものの、消え去るとは言い難い。
ヨーロッパは、国家の上に超国家的存在を作り出しているが、今後どのような形でグローバリゼーションが進展していくのか定かではない。
フランスの場合、2005年5月、国民投票でEU憲章の批准に反対した。
多くのフランス人が、国境を越える、資本の自由気ままな動きに反対したのだが、これは別に驚くことではない。
驚くべきことは、賛成投票した人々でさえ、その理由を強力なヨーロッパだけが、今日の世界経済の中において、人権と社会契約を擁護することが可能であり、グローバル資本に対して反対することができるからだとしていることだ。
今の世界では、わずかな国が、歴史上、前例のない破壊力を持つ兵器を一手に所有しており、しかもこれらの国は、ハイテクを駆使した政治の武器から、自爆するための単純な武器に至るあらゆる武器の売買により利益を追い求める、国際武器商人によって、足元を揺さぶられている。
エピローグ
日本を含む東アジアを考察することは、近年におけるこの地域の発展が示す重要な問題を考える上で大切なことです。
東アジアが廉価で、しかも労働集約的な商品を製造することによって、世界の分業システムの下位部門に統合されつつあるというのは奇妙なことだと思います。
しかし、東アジアで起きた20世紀における世界の驚くべきサクセス・ストーリーが、今後ともこの地域で継続するかどうかは分かりません。
今日の世界においては、新製品を開発し、市場を拡大すれば、さらに大きな利益が獲得できるようになりましたが、生産力を上げるだけでは、利益を拡大することができません。
世界のどこでも認められるようなブランドを開発しない限り、将来的な繁栄を確保することはできないのです。
日本や韓国は、世界で通用するブランド商品を開発していますが、中国や東南アジアの国々は、日本・韓国には及びません。
台湾はその中間に位置しています。
現在の世界を彩る、奇妙な事実ーー産業革命が始まった時代と比較して、極めて特異に見えることーーは、現在の経済において、地域の文化や伝統の演じる役割が大きくなっているということです。
アメリカやヨーロッパは、世界の消費者に対して、その文化やネットワークを提供して、新商品を次々と開発し、市場を開拓しているにもかかわらず、世界の消費者は、おそらく、今後数年間にわたって、アメリカやヨーロッパではなく、“新興国”で製造された商品を購入するようになるでしょう。
もしそういうことになれば、今後、世界経済における勝敗を決めるのは、地域の文化から、ということになります。
我々が生きている現代社会には、未だかつてなかった量のものが満ちあふれていますが、同時に信じられないほどの格差が蔓延し、恐るべき暴力がいたるところで行使され、人間と人間との関係が日々険悪なものになり、さらには地球全体が恐るべき時代に直面している、ということを、本書を通じて伝えたいと思います。
われわれは、貿易が作り出した世界の外では、物理的にも精神的にも生きていくことができません。
だから、この世界を全地球上の人々に恩恵をもたらすような社会に作り変えるために、新たな展望を切り開かなければなりません。
われわれは、歴史に学ぶことで、展望を切り開けるものと信じています。
私(チキハ)の感想です。
著者のポメランスは、歴史学部の教授です。
底辺の人や一般の人に焦点を当てることで、新しい視点を投げかけています。
このように俯瞰して世界を理解しようとする試みは、いつも日本人以外の本です。
この本のはじまりには、「中国では、1100年代に紙幣が作られ、それは世界最古の紙幣だったが、15世紀になると紙幣から銀貨に置き換えられる。
それから5世紀間にわたって銀貨が世界中で使用された。」ということが書かれています。
そこには、イギリスやオランダ、スペインという使う側の国、それを採掘する奴隷はアフリカ、インカ、アステカ、鋳造する国はメキシコやボリビアといったことが書かれています。
最近のフランスの様子をTwitterで見ると、デモの様子は驚きです。
訓練された人達も混ざっている様子で、扇動しているのは一般市民ではない、との話もあります。
歴史はいつも一般人の正義が、権力者に利用されてきたことを教えてくれます。
最近では、政府やマスメディア、SNSでも検閲がされていたことなどが広く知れ渡ってきているようです。
これからは、地域の文化や伝統が貿易の中心に移っていくという話は他でも聞きます。
決済に使う通貨が一部の人間に握られることなく、世界中の誰もが安心して使えるなら、グローバル経済も素晴らしいものになるのではないかな、と思い、そんな未来を想像したいと思いました。