ユタカ2イキルオテツダイ

ほんの少しずつ、ゆたかになってゆきましょう

5話 副校長、教頭と面接

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3月20日

金ちゃんの「嘆願書」と、私の書いた「手紙」を副校長と、教頭が読んでいます。

私はスマホで録音ボタンを押しました。

私は二人の心の状態見ようと意識を集中させました。

見えるのは以外にも、おびえた心でした。

私は、敵陣(アウェー)に子供と2人で乗り込んでいるような思いでした。

< きっと言うことはまともに聞いてもらえない。学校の都合のいいように言いくるめられる >と思っていました。

しかし、「うちの子だけじゃない。犬山先生にいじめられて困っている他の人達もいるので、何とかして欲しい」となにがなんでも言うのだ、と心に決めていました。

 

後から録音したものを聞いた時に驚きました。 

私が精神的に追い詰められたような、被害者意識がそう思わせたのでしょうか。自分が感じていたのと、全く別の世界のようだったのです。

先生方の話しは、こちらの気持ちに配慮したものであったし、金ちゃんのことを心配しているようだったのです。

事実をそのまま記憶していないものだと、本当に驚きました。

 以下の文が録音した音声を書き起こしたものです。

 

「ま、一応こちらのほうを読ませ。て頂いて、担任と話をし、犬山先生の方とも話をしたんですけれども、

で、実際あの、一年の時昼休みにテニスの施設を借りて、使って、授業に遅れしまったと、

そこのところはルール的に、授業に遅れてしまったと」

副校長先生が話を始めました。

「昼休みに使っ…」

金ちゃんが言い出すのをさえぎって、副校長先生は続けました。

「昼休みに、でまあ、君は非常に気持ちが優しいっていうか、あれなのかな、ま、読ませてもらってそのような印象を持ったんですけど。

それが全部自分のせいで他の人たちも使えなくなっちゃったという事について、非常に罪悪感を持っちゃった、ということなんですけども。

ま、あの、ルールを守れなかったというのは、残念なんですけども、そういったことであって、

テニスコートそのものを使えなくなっちゃったのは、君だけじゃない、君たちっていったらいいのかな、

テニスコート使用禁止、それはもうルール。そんなに気に病むことではない、ということも、犬山先生のほうから聞いているんだけども」

「はい」

「で、ま、いくつかのこの、発言っていうんですか、これはもう君がそういうふうにとった、とってしまってるっていうか、

君にはそういうふうに聞こえた、でも、犬山先生本人にはそのつもりじゃない、

これはもう本当に水掛け論になってしまっているんでね、これはもう、私たちが、犬山先生は言ってませんよ、と申し上げても、

君やお母さんには、納得ができない、ということはあると思うんですけども、確かに君が受け取った形での言葉ということになると、

一年生の時の昼休みのルールが守れなかった、ということが発端で、ずっとそれが、陰に陽になにかそれが、犬山先生の方から、それが圧迫といいますかね、

パワーハラスメントって言う人もいるかもしれませんし、まあ、いじめ、いじめというふうに感じられる、ということについては、分かります。

気持ちの面で君が苦しんでいるというのも分かっているつもりでいるんですね。

ただまあ、あの港北高校が好きで、卒業したいというふうに考えている、

成績的にはとくに問題ないということなんですけども、犬山教諭は学年の担任、ということですね、

学年の担任ということであれば、教科担当ということになります。ただあの、体育ということでですね、

種目ごとに選択をしていきますのでね、そこのところで、他の教員も担当することでありますから。

君は、担任が言ってたけど、姿を見ただけで、動悸がするっていうのは本当ですか」

「はい、朝、廊下で会う時も、それだけでもう学校にいたくはない。ということです」

「それはいつごろからなの。一年生のときのこの事があって、すぐなんですか」

「はい、ここからはそうなんですけども、その後もどんどん、学校生活のなかでもこういうことが頻繁にあって」

「それはあの、こっちに書いてあるような形で、事あるごとにというか、すれ違いざまとか、そういった所で、そういった言葉を、聞くという感じ」

「日に日に増していって、という感じです」

「で今は、動悸がするとか、あるいは気分が悪くなるとかってあるんですか。あ、なんかお休みしているんですよね。

ずっと、1,2週間、これはずっと、身体的に?今日は来てる、来てるっていうか。まあ、元気そうではあるよね」

「はい、すごい今もお腹が痛いです」

「お腹が痛いの。うーん、学校に来るとお腹が痛くなっちゃうってこと?学校に行こうと思ったりすると。腹痛だけ?」

「一応、腹痛だけです」

「夜は眠れるの?」

「夜は、はい」

「食欲とかは?」

金ちゃんが黙ったので私が「普通、だよね」と言いました。

「ですから、まあ、どうしてもね、犬山先生とですね接触したくない、と心身的に出てしまうというんであれば、最大限の配慮、と言うのは用意があるんですけども。

体育の選択で、犬山教諭が担当しない、ということで配慮したい」

今度は教頭が話を始めました。

「あなたが、3年になって、体育でいくつか競技ありますよね、自分はこれとこれとこれをやりたいんだ、という希望がもし、事前に示して頂いて、そこに犬山教諭をもたないということを考えています。

私共が一番考えることというのは、金ちゃんが学校に来れない状況があると、これすっごく大きい問題で3年になっても、それが続くようなことがあってはならないと思うんですね、

ですから、学校としては、出来ることと出来ないことがございますけれども最大限の配慮をしたいと、いうふうに考えています。

ですから、金ちゃんが、こうして欲しいんだ、という分かりやすい事を言っていただいた方か、我々も対応しやすいです。

もうひとつ後は犬山教諭の対応が、ということは十分わかりました。

これについては、我々管理職として、しっかりとここは、

それを感じているのは、金ちゃんだけじゃなくて、ほかにもいっぱいいるんだ、

ということを踏まえて、厳しい指導、と言ってはへんですけども、

これは我々の責任範囲ですから、これは、もしかしたら誤解があるのかもしれないし、不適切な指導があるのかもしれないし、

という事を我々も、教師としてって言うことは、しっかりと指導していきたい。

犬山教諭の指導というのは私たちが責任をもって指導していきます。

もうひとつは、金ちゃんが3年生になったときに学校生活を送るための配慮、

具体的に、どうしてほしいか、今、副校長と話があったみたいに、姿見ただけでもっていう所あるけど、

さすがに学校で、授業かくれて行くには行かないので、ただ、出来るところで、担任にはないだろうとか、

教科担当だと厳しいっていうのであればそうならないような配慮そういったことは配慮したいので、

分かりやすく、はっきり言っていただければと」

「今おっしゃっていただいたような措置を取っていただけると、本当にありがたいです」

と金ちゃんは言いました。

「なかなか、性質上、アンケートをとるとか、難しいところございますよね。ただ、もしも具体的な名前があるんであるならば、そこのところから聞いていくことも可能ですし、

あとはもちろん、程度の差があると思います、感じ方が、お子さんによって、

ただまあ、一教諭の発言によって、不快な思いをしている生徒がいるということは、

もう、充分わかりましたので、

そこについては、そうならないように我々の立場として、監督責任ございますのでね。

お母さん何かありますか」

私は、最大限の配慮をしてもらった、と思いました。しかし、工藤さんの言っていた「言っても、一時的にやらなくなるだけで、繰り返される」ことを、伝えなくてはいけないと思いました。

しかし、工藤さんは特定されたくない、ということでしたので、それを話す私は、しどろもどろでした。

「うちの子は、いいんですが、他の子はどうなるんでしょう。

ひとつやっかいだな、と思うのが、その保護者のお母さんから聞いて。

あの、特定されるような話はちょっと、出来ませんと、今もいじめに合ってます、と言うんですね。

名指しでね、同じように、過去にちょっとしたミスが原因で、『またお前か』というようなことがあって。

それで学校の方にお願いして、『どうなんですか』っていうお電話をしたそうなんですね、

そうしましたら、少し落ち着いたらしいんですが、

また今始まってるっていう話を聞きました。

それと、個人的にその子のミスっていうのを大きくかぶせて、ここにも書いてありますが、

この人の場合は、テニス部の友達と遅れたことに対して、連帯責任で

女子テニス部、硬式テニス部が

そのことが原因で、使用停止、ということがありました。

それと同じようなことを他の部活の子で

全体責任を取らされて非常に苦しい思いをしていると聞きました」

副校長が話を始めました。

「特定の部活ということではなくて、テニスコートの使用停止ですね。

体育館でもあるんですよ、使用停止というのは、ですから特定の部活停止、ということではなくて」

私は必ず抵抗に合うと思っていたので、反論されたらそれ以上は言わない、と決めていました。

「はい、分かりました。

でも、そのお母さんの言うには、その部の部長なりもやられている、

で、代々やられているって言うのを1カ月前に聞いたのよ。っていうのを聞きまして」

副校長の顔つきが変わってきました。

「代々やられている」

「はい、代々やられているって言うのを聞きまして。

その使用停止っていう指導が正当だと生徒には思われていない。

もし、ルールが問題であれば、ルールを見直していただかないと、永遠と子供たちの不満がつのり、子供が言っておりましたが、

それが先生に対する、個人の先生に対するという事だけでなく、他の先生方とか学校に対する不満、というふうに感じているわけですね」

副校長が話を始めました。

「犬山教諭が、特定の部活に対して、なにか執拗に、代々っていうような話ですと、

代々っていう言葉をそのまま受け取らせていただくと、

ずーっと執拗に、特定の部活に対して、特段理由もないのに、あるいはその理由がルールというものから離れて」

「そうですね、というようなニュアンスの話も聞きました。

それで、犬山教諭から直接言われるならまだしも、部活の顧問に言って、そこで言われているから、直接犬山教諭に反論出来ないようなルート、

そういうふうに、うがった見方ですが、そのお母さんは、そういう風なニュアンスで言っていました」

「まあね、でまあね、部活動指導っていうのは、直接指導する顧問があって、だから、何かあって犬山教諭が直接指導してほしいというようなことがあります」

「はい、でまあ、

そのお母さんと話していた時に、みんなのために頑張ってって、

副校長先生にお会いしますって言ったときに、もし話が進むんであれば、協力したいっていうふうに言ってました。

ですから、なんかちょっと、あの、分かっていただけると思うんですが。

それから、子供が書いてあります、その指導の後にですね、お前らみたいな、不愉快な奴らとかですね」

「君はすごいね、あの不快な奴らと違って」

「あ、そういう言葉だったのかな、あと、その後に」

「どうなるかと思って見てたけど、やっぱり君たちだめだったね」

「これは、ちょっとどういう事なのかな、と思いました。こんなことがほんとにあるんだったら、これ何のために、ここまでやるんだろうかと、

このいじめみたいな、ねちっこいこの、ここが問題なんだと、思っているんです。

ルールを守る守らないではなく、

問題はここであると、

いうことなので、先生が自覚していただくことが一番なんですが、

その後、またこのようなことが、感じられることがあるとしましたら、やっぱり、もう少しきつい態度」

「それは、また繰り返されるようなことがあれあば、これはまた別の次元の話になってきますので」

「代々、と言われておりますので、どこかでこういうような指導が入らなくてずっと来た可能性もありますし、

本人が気が付かずに、もし、気が付いてやっているんでしたら、

ちょっと、ちょっと、あの、どうなのかな、と思います。

わざと、あえて、やっているようなことがあれば、

無自覚かもしれませんが」

副校長が話を変えました。

「ま、君はこういう風な形でね、苦痛を感じているのは事実なので、それは、あ配慮していただいて、やっていきたいという事なんで、で君自身は、何、今月ずっと休んだ?」

「先週1週間休んで」

「あんまり、休んじゃうとさ、今度逆に学校に出て来づらくなっちゃうよね」

「はい、来づらくなって」

「習慣になっちゃうからね、休むことがね、結構、学校に行くとか、仕事に行くとか、こんなこと言っちゃなんだけど、惰性の部分があるから、ずーっと習慣でやってて、

それでね、辛くても、惰性で行っちゃえみたいな、行くとまたたいしたことない、みたいなことあるから、

あんまり習慣にしないほうがいいよね」

「はい、今週中に出来れば1回以上は来たいなって、出来れば、明日からでも、来たいなとは思っています」

教頭が話を振りました。

「金ちゃんの方から何かあります」

「いや、もう特に言いたいことは全て言わせていただいたんで、特にはもうないです」

副校長が力強く言いました。

「これはもう過ぎたことだから、気に病む必要はない、ね」

私は遠慮がちに聞きました。

「これはちなみに、校長先生の方まで通して頂ける」

「もちろん」

「はい、よろしくお願いします。で、学校の対応、子供たち、保護者達、きっと見ていると思いますので、

このまま、行くことのないように、もしこのまま続いてこられた場合にですね、次なる対応の方もご検討宜しくお願いします」

「そう、ならないようにするのが我々の仕事ですから」

「また、その性質によって、隠ぺい、裏のような工作、もしくは巧妙な事をやる人間もいるみたいなので、分かりずらくなる」

「それは、子供たちがどう感じるかですよね」

「そうですね、そこが声が上がればいいですけど、さきほどみたいに、

そこらへんをどうしたらいいんでしょうかと思って、上の組織の方に入っていただくのが1番いいんじゃないかと言う風に私は考えたんですね。

そこで、いじめ防止なり、の指針がございますよね、

で、こういった場合、校長先生の方から、報告がいくとなっておりますので、そこまでやっていただけると、

その専門家の方、その上の方の情報が色々と集まっている方に目を通して頂けると、

我々ではわからないようなこと、次の展開があるのではないかと、思ったんですね

「1月下旬に渡した文書で、直接学校ではなくて、教育委員会の方に、黙ってと言うんじゃないですけども、そういったものの投書じゃないですけども、

もしもそういうことがあるんであれば、学校を通さずに、直接連絡してくださいねっていうのは、全生徒にそう言う文書を配ったんですね、

封筒付きで。そういったケースでそれどういうことなんですかってあの、連絡来ることもあるんですね。

そういった機会を利用して頂いてもかまいませんし、もちろん我々もそのときには、きちっとご報告させていただきますし」

「はい、そうさせて頂くと思います

お時間取らせてすみませんでした」

席を立つと、副校長先生が金ちゃんに向かって、「君は文系か」と話しかけていました。「処世術」という単語か聞き取れました。

金ちゃんは少し笑顔を浮かべて聞いています。

その時は、その言葉に何か汚いもの、真実をうやむやにごまかそうとしている大人、と見ている自分がいました。

そして、そう思っている自分を遠くから見ている自分もいました。そして、私を教頭先生が見ているようでした。

録音しているスマホが気になって、あたふたしてしまいました。

金ちゃんも、しっかりと自分の意見を言えたし、「嘆願書」がとてもよく書けているのをほめられて喜んでいる様子です。

ですが、金ちゃんは、腹が痛いのですぐに帰ると言って、自転車に乗って急いで帰りました。

 

私は、力を出し切ったと思いました。これからは、きっとすぐには良くならなくても学校に行けるようになる、学校は出来るだけの事をしようとしてくれている。そのときは、そう思っていたのです。

私は雨の中カッパを着て、自転車をこいで家に向かいました。