ユタカ2イキルオテツダイ

ほんの少しずつ、ゆたかになってゆきましょう

20話 受験までスマホ絶つ

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2月9日

金ちゃんは、三日に1回は朝まで起きています。

今日も「最近、眠れない」と言ってましたがいつものことと、聞き流していました。

受験に関することを

ネットで検索していたら、「受験前にありがちなストレス」に「不眠と腹痛」があって、はっとしました。

そういえば腹痛もここ2、3日あるようなのです。

いよいよ本番まであと2週間ちょっとです。

 

私は数週間前のことを思い出していました。センター試験が終わり、思うような結果が出ていないので金ちゃんは落ち込んでいました。

そんなある日、金ちゃんの過去問ノートを見ると、ビッシリ数式が書いてあります。そして、丸がついてないのです。

バツばかりならんでいます。私は血の気が引く思いがしました<こんなに頑張っていたんだ>。

私は、しばらくしゃがみ込んだまま、動けませんでした。

こんなに問題を解いているのに結果が出ていないなんて、どんな気持ちだったんだろうと思いました。

 

夕べは徹夜で、過去問の数学を解いていたのです。「思ったより時間がかかって」と言っていました。

その様子から何か、感じるものがあったので、せかして丸つけをさせました。

 

「300点中115点取れればいいんだからね」

 

これは、ギリギリの合格目標です。<いけるかな、せめて手に届きそうな点数が、1度くらいあってほしい>そう思っていました。

 

「どうだった」

 

「88点」

 

「おーぅ」

 

私は何かをやっているかのように、間を取りました。何といえばいいのか、とっさに浮かびませんでした。

あと30点。マル付けをしたノートを細かく見ると、

 

「あと、大問5つの中の3問の中の1つが、6点取れればいいんじゃん。部分点で半分取れればいいんじゃん。

20点中6点だよ、6点。いける。見えてきたーッ」

 

金ちゃんは、聞き耳を立てているように感じます。私は、続けます。

 

「こうなんだよ、成功の曲線は直角に上がって、今ここ。あと2週間で追いつく」

 

自分でもむちゃくちゃだなと思う反面、本当にそうなんだ、とも思う。金ちゃんの頑張りだといつか到達する、間に合うはずだ。

 

金ちゃんは、「スマホ封印する」と言って、オセロなど入っているクリアケースにスマホを入れています。

しかしそこではすぐに取れていまいそうです。そう私が言いますと

 

「そうなんだよね。もう、ここ何回も使ってるから出し入れしやすくなってる。はじめは、ここが(オセロの板)邪魔だったんだけど」

 

と前髪をなびかせながら神妙に言います。私は吹き出しながら言いました。

 

「私が隠しておこうか」

 

「そうしてくれると助かります」

 

金ちゃんは、なんの未練もなくスマホを渡して行きました。受け取ったスマホに目を落とすと驚きました。

傷一つないきれいな状態のスマホだったのです。それが、今手の中にあるのは表面は使い込まれ劣化して、

画面には引っかいたような傷がいくつもあります。

そういえば、金ちゃんが学校に行かなくなってから11ヵ月間、来る日も来る日もずっとスマホを触っていたのです。

 

私は金ちゃんのスマホを心臓か何かのように思い、大切に隠しました。