『サブプライム後に何が起きているのか 』(春山昇華、2008)
いま私たちは、歴史に残るような転換点をむかえています。
アメリカは長期にわたってほとんど不動とも思われる地位、権力を握っていましたが、その力の衰えが指摘されるようになってしばらくたちます。
そして、この本にも書かれているようなことが起こっています。
一つは金融危機の多発です。
もう一つの多極化(他をおさえ、支配下に置く勢いと力が、中心をはなれてそれぞれ張り合いながら、つり合いが取れた状態)はじわりじわりと進んでいるようです。
〈以下一部抜粋・要約〉
第5章 世界金融維新
覇権の歴史 ローマ帝国
最近、世界の覇権を長らく 握って いた アメリカの力の衰えが叫ばれている。
アメリカは本当にこのまま覇権を失っていくのだろうか。
その将来を占うために、 過去の覇権国が 衰退するときの歴史を振り返ってみる。
最初に覇権を握ったとされる最古の国はローマ帝国である。
最盛期を迎えているローマ帝国は この時期、
ローマ本国の 外にある属州と呼ばれる 国外地域からの輸入がなければ
国内経済が維持できないほど 内外の経済が一体化していた。
ローマは国外地域を開発することで、 国外の属州も潤したが、
ローマ本国はそれ以上の恩恵を受けていた。
一見すると国外経済との共存共栄なのだが 、これは国外経済の上前をはねていたわけであり 、
これこそが覇権の実態であった。
衰退は 帝国の 東西分裂がきっかけだ 。
周辺国の独立、 異民族の侵入、 防衛戦の放棄が、ローマ支配地域の 縮小となって顕在化した。
ローマ帝国の衰退が顕著になると、 急速に通貨価値が下落した 。
通貨の価値に対する信用を失った貨幣はどんどん地位が低下していった 。
その頃になると ローマの次の時代を担うであろう国々の 台頭が見られるようになる。
しかし、1453年の 東ローマ帝国滅亡後も、 次の覇権が決まるまでには 長い年月を必要とした。
その間 欧州は多極化の時代を迎えた。
その後に イギリスが次の覇権を引き継いだ。
その理由はいくつか考えられる。
一つは イギリスは大陸欧州と海を隔てて離れている という地理的な好条件だ。
ローマを目指して 侵入していた蛮族との 戦いと 、
その後の 大陸欧州各国との ごたごたに 巻き込まれる回数が少なく、
自国の政治や経済の発展に 専念する時間が 大陸欧州勢よりも多く取れたからだろう。
アヘン戦争は 貿易赤字を取り戻すための「 苦肉の策」
2番目の覇権国 ・イギリス。
産業革命で資本を蓄積させたイギリスは 、
その資本を有効に活用して 大英帝国を実現した。
そのイギリスの資本と技術で 、アメリカ、インド 、アフリカなどが開発されていった 。
結果的に開発された国々 とイギリス経済と一体化したのが 大英帝国だ。
大英帝国は 対アジア貿易で 恒常的に 大幅な赤字に悩まされていた。
特に対インド、 対中国の貿易赤字が大きかった 。
貧しいインドや中国には、 高価なイギリス製品を購入する余裕がなかったからだ。
アヘン戦争の原因となった イギリスによるアヘンの中国への輸出は 、
貿易赤字を取り戻すための 苦肉の策と考えられる。
その衰退が明確になったのは、 第二次世界大戦の後だった。
多発するポンド危機と、 植民地の独立を通じて 、支配地域の縮小が始まり 、
覇権の縮小が顕在化した。
そして イギリスによって開発され 発展を遂げたのが 次の覇権国・アメリカだった。
次の覇権国はアメリカによって開発され 発展を遂げる国だ
アメリカはイギリスを中心とする欧州の資本と技術で 、開発が進められた。
順調に経済的発展を続けられたアメリカも、 大英帝国と同様、
地理的に優位であった。
欧州から離れていたため、 戦乱に巻き込まれず、 無駄な戦費を浪費することなく 経済的な発展を 継続することができた。
そして60年代の ケネディ政権の時代、 旧ソ連がキューバに 核ミサイル基地を作ろうとして引き起こされた
「 キューバ危機」の頃が覇権のピークであったと思われる。
衰退の兆候を示す最初の事件は「 71年のニクソンショック」
( 金とドルの交換停止と為替の変動相場制移行 )
であったと 後年の歴史は語るであろう。
歴史のセオリーからすれば 、アメリカの資金と技術によって開発され発展を遂げる国・地域が、次の覇権国となる。
しかもアメリカが巻き込まれている 混乱から、何らかの要因で 隔離されている利点を有している国のはずだ。
90年以降を考えると、 中東イスラム地域や 、中国を中心とするアジア地域に アメリカの資金が流入している。
歴史から類推するならば、 アジアか中東地域に次の覇権が動くのだろう。
とくに中国を中心とした アジア地域が頭一つ抜けてきている。
通貨下落の意味
通貨価値の低下は、 衰退する覇権の一つの表れである。
ローマの通貨価値の低下、 イギリスのポンド危機と同様に、 米ドルも通貨の価値が下落している。
発展途上国も含んだ貿易加重 US ドルの指数を見ると、 ドルは02年2月がピークだったことが分かる。
双子の赤字は 世界が許しているから
アメリカで財政と貿易という 双子の赤字が許されているのは
マージャン(賭博)で負けが込んでも、 テーブルを囲む参加者から
「 いつも色々お世話になっているし 来月の給料日に払ってくれればいいよ」と ゲームを続けてもらえる状態と同じだ。
どのようにすれば 世界がこの状況を許し続けてくれるのか。
体力が回復したら また買い物三昧を再開して 世界をサポートすれば良い。
サポート出来る限りアメリカは世界の覇者である。
アメリカの体力回復は景気の立て直しである。
加えてデフレを引き起こさないことだ。 デフレになれば、
借金が目減りしないどころか、 新規の不良債権が雪だるま式に発生する。
また、景気が回復するまでの間だけは、通貨価値を上昇させてはならない。
通貨高はデフレ要因なのだ。
よってアメリカへの輸出国は 、アメリカが体力を回復するまでの数年間、 ドル安という不利益を我慢して過ごさなくてはならない。
アメリカは、すぐには死なない
覇権の衰退縮小過程では 、数々の巻き添えを食う事態が発生する。
巻き添えとは 、金融危機が多発し、 それに巻き込まれることだ。
国際政治に関係するレポートを読むと、 「覇権国の衰退に伴い 多極化の時代、 群雄割拠の時代を迎える 」
と書かれているが、 多極化とは、 次の覇権決定までの模索期間である。
次の覇権国は中国か
アメリカから覇権が移るとしたら、 将来的には中国だと思っている。
多額の貿易黒字が年々積み上がっている。 貿易黒字として蓄積されたお金のパワーは絶大である。
資本主義社会においては お金が蓄積された「資本」こそが王様である 。
資本を持つものが 借金 (負債)を隷属( =有利に利用)させながら、
世界のどこに資金を分配するかをコントロールできるからだ。
私 (チキハ)の感想です。
これから大変な数年間が予想されています。
経済の縮小の後に、 混乱が起こり、 その中でベーシックインカム(10万円程度の現金支給など、最低生活保障のこと)
も導入されるのではないか 、ともいわれています。
資本主義の 、「強者が弱者を搾取する 仕組み」は 崩れるのではないかという人もいるようです。
これからは、資本主義の良いところと、悪いところが見直されるのではないでしょうか。