『円安待望論の罠』(野口悠紀雄、2016)
2022年の3〜4月に値上げを予定している企業が多いです。
岸田内閣は賃上げを企業に要請しています。
いまの物価は指標から見るとそれほど高くはありませんので、日銀はまだ利上げに言及していません。
アメリカは、物価上昇が進んでいるので、FRBは来年から利上げを示唆しています。
中国は、食料備蓄量を増やしています。
各国企業の撤退もあって、中国製品の値上げもありそうです。
さて、日本はこれからどうなるのでしょうか。
<以下一部抜粋・要約>
「ニューノーマル」の世界で何が起こるか?
資源価格の下落と新興国の減速
アメリカの金利がこれからもさらに上がる事は間違いない。
したがって、これまでのように投機を継続できないことも、間違いない。
では、投機の時代が終わると、何が起こるのだろうか?
第1は、資源価格の下落だ。
資源価格の下落は、原油にとどまらない。
他の一次産品品価格の国際価格も下落している。
このため、一次産品の輸出に依存する新興国や、産油国の経済成長が減速する。
これが変化の第2点だ。
第3は、投機資金のリスクオフ現象である。
金融資産の中では、リスクが高い株式から資金が引き上げられて、リスクが低い国債に流れ込み、その利回りを低下させる。
投資地域別にみれば、リスクが高い新興国資源国から流出して、日独米など、セイフヘイブン(安全な港)とみなされる先進国に流入する。
資源価格下落を経済成長につなげる経済政策が必要
リスクオフ現象は、円高圧力をもたらす。
これからの為替レートは、日米金利差拡大による円安圧力と、リスクオフ現象による円高圧力という正反対の圧力の、どちらが強いかによって決まる。
リスクオフ現象が十分に強ければ、金利差の影響を上回って円高が進む可能性がある。
事実、円ドルレートは、15年12月からは円高のトレンドにあり、特に12月末からはその傾向が強まった。
この傾向が続けば、12年秋以降続いた円安のトレンドが終了する可能性もある。
そうなれば日本経済には大きな影響が及ぶ。
これまでのように輸出企業の利益が自動的に増加するといったことは期待できなくなる。
ただし、円高は円建ての輸入物価を下落させる。
これは、前述の資源価格下落と相まって、日本経済に大きな利益をもたらす。
それは、まず原材料コストを引き下げ、企業の利益を増大させる。
とりわけ、電力料金の引き下げは大きな効果を持つ。
原材料コストの低下が最終製品価格に反映されれば、消費者物価の上昇率が低下し、実質賃金が上昇する。
それは実質消費を増やし、実質経済成長を引き上げるだろう。
このようにして、資源価格の下落を、日本経済の成長につなげることができる。
日本銀行は、インフレ目標を掲げる一方で、名目賃金の引き上げが必要だとしている。
しかし、経済成長にとって必要なのは、実質賃金の引き上げである。
そして、これは、名目賃金が上昇しなくとも、物価上昇率が低下すれば実現できる。
今必要な経済政策は、資源価格の下落を、日本経済の成長につなげることである。そして、そのための第一歩は、インフレ目標を撤廃することだ。
新しい技術導入のために経済社会構造を変える
アメリカの経済成長率は、日本のそれに比べてかなり高い。
この背景には、新しい技術がある。
新しい技術を取り入れることによって経済が成長しているのだ。
産業別の資金報酬の伸びを見ると、所得の伸びが高いのは、専門的技術的サービス部門である。
いま、情報技術の世界では大きな変化が生じている。
例えば、「フィンテック」と呼ばれるものがある。
これは、ITの金融への応用である。
送金・決済、貸付業務、投資アドバイスなどの分野で、様々な技術革新が行われている。
また、スマートフォンの利用拡大に伴って、様々な新しいサービスがスマートフォン上に登場した。
例えば、タクシー配車サービスのUberや、民泊紹介サービスのAirbnbがある。
これらは「シェアリングサービス」と呼ばれる。
新しい分野の成長ぶりは目覚ましい。
日本でこうしたサービスが発展しない理由としては、様々なことが考えられるが、大きな原因は規制である。
とりわけ、規定の特定の業種における参入規制だ。
例えば、金融サービスについては、強い規制が加えられている。
規制が新しいサービスの導入を阻んでいるのは、タクシー配車や民泊についても言える。
タクシーについては、道路運送法があり、旅館については旅館業法がある。
これまでこうした分野においては、市場情報が不完全であることから、サービスの水準を維持するためには規制が必要と考えられていた。
しかし、その状況が、スマートフォンの利用によって大きく変わろうとしているのである。
その結果、参入規制は、消費者保護を名目としながら、実際には既得権益を保護するためのものになっている。
そしてこうした規制が、新しい技術の導入を阻んでいる。
これからの経済発展にとって、新しい技術の導入は、極めて重要な条件である。
そのために社会構造を見直すことが、重要な課題になりつつあるのだ。
金融緩和や円安に頼るのでなく、経済の構造を変えることによって、新しい成長の道を見出さなければならない。
私(チキハ)の感想です。
新しい産業構造というと少し難しくてわかりにくいです。
橋を作るとか建物を建てるとか目に見えるものはわかりやすいのですが、サービスで、しかもITを使ったものは私にはわかりにくいです。
戦後新しい技術で製品を世に送り出したように、専門技術を使いこなしていく人たちが新しい産業をつくっていくのでしょうね。
戦後は今も続いているという話を聞きます。
そして今その戦後体制が終わろうとしていると考える人もいるようです。
一つのサイクルが終わろうとしているのですね。
戦後は古い人たちはいなくなり、若い人たちが思う存分活躍して世界に通用する企業を築きました。
これから、その一連の流れが再び起こるのでしょうね。
さて、それら以外の人々(一般人)の活躍ですが、えっとー邪魔にならないようにすることと、農業、工芸、健康などの分野に活路があるとか聞きます。
海外で作られていたものを国内で作るようになるという人がいます。
もうすでに、始めている人たちはいるようですね。
おそらく10年とかの期間を必要とするのでしょう。
大変そうですが、ちょっと面白そうです。
金利の世界が変わります。
ロイターによると、「LIBOR(ロンドン銀行間取引金利)は来年1月1日以降、新規のデリバティブ取引やローンの参照金利として使えなくなる」とあります。
トレーダーの不正発覚によって、信頼が失われ撤廃を求める声が上がっていました。
私たちの身近なところでは、住宅ローンなどの金利に使われていた指標です。
これからどう変わってゆくのか見て行きたいです。