『続・善と悪の経済学 資本主義の精神分析』(トーマス・セドラチェク/オリヴァー・パンツァー、2018)
<以下一部抜粋・要約>
経済の肉体と魂と精神とは
経済の「肉体」面を分析する試みは、これまでに実体経済や、原料、機能、会計、産業、生産と消費等「リアル」な分野で多数行われてきた。
一方、経済の「魂」や「精神」の研究はあまりなされてこなかった。
経済の「魂」とはいうなれば、学問としての経済の研究で、人間が何を知っているか、システムとして、経済をどう包括できるかなどの知的で抽象的な話だ。
かたや経済の「精神」とは、人間が何を希求し、何に惹きつけられるのか、経済学という分野は、そもそもなぜ存在するのか、その究極の目的は何か、そして、こう表現するのが許されるなら、人間にひそむ神的な部分は何かというような話だ。
人々の心情や希望や不安、政治的行動、そして自由や規制についての考えが存在するのは、実体経済ではなく、経済学という学問、つまり「魂」の部分だ。
経済学という「魂」の領域において、経済は自身の像を作り、自己を認識する。
そして、この領域には、経済に高い意味を与える物語が宿る。
精神的失調がしばしば始まるのもまた、この領域だ。
だが、その症状は、まず実体経済、つまり「肉体」に表れる。
そして「肉体」すなわち、経済は、まるで、心から体に伝わる心因性の病気にかかったような振る舞いを見せる。
心と体は別々のものだが、互いに強く結びついているのだ。
例を挙げよう。
数学的モデルは、厳格な心情と非常によく似ている。
もっと正確にいえば、「厳格になるべく」鍛えられた心情と数学的モデルは、よく似ている。
数学的モデルは魂(=学問)の領域に根ざし、体(=実体経済)の働きを記述し、整理する。
数学的モデルがシステムの中で病むことは無い。
病むのは私たちの心情であり、欲望だ。
この「精神」は、ときには上から鳴り響き、ときには前から、あるいは後ろから私たちを突き動かす。
だが、それはいつも、私たち自身の中から生じている。
ケインズは、それを、「無から行動への湧き上がるような衝動であり、数量的な利益に数量的な確率を掛け算した加重平均の結果ではない」と表現した。
これはいわば「生命感」であり、おそらく「生きていること」そのものである。
モンテ・クリスタッロの羊飼い
希望と夢ーー終わりの物語
実際のところ、現代社会の主要な問題を解く答えは、希望と夢以外にない。
そうした夢は、無意識の集合的記憶から育つと語ったユングの言葉を信じるならば、古式で神話的に思える夢も認めるべきだろう。
問題を解く夢は、戦いと英雄よりも、ある状態への深い憧れに関わっている。
それは普通、率直と好意の状態と呼ばれるもの、つまりフロイトが最終的に文明の病に効く薬として考えた「愛」である。
私(チキハ)の感想です。
この後に南チロルの谷に住む農民たちの物語の伝説が書かれています。
そして、ギリシャの聖地に行くことがあったら、デルフォイの神託の門に刻まれた言葉、「汝自身を知れ」を思い出して欲しいと書いています。
城には美しい姫が住んでいた。
すでに何人もの王子や貴族が結婚の申し込みに来ていたが、みな肩を落として帰っていった。
1人の羊飼いの男が城に呼ばれた。
「姫様、本日、私がお話しするのは本当に起こった出来事でございます。
けれど、ここではなく、はるか遠くの国、選ばれし者の国と呼ばれる地での出来事です。
みんなが平和と協和の国で暮らしていた頃のことで、戦争も争いもなく満たされていました。
いつかその地を離れ、この世で人間として苦労と心配の中に暮らすときが来るとは思っていませんでした。
あちらでは誰にでも果たすべき役目が1つあり、姫様は私たちの女王様でした。
民はみな、女王様の公平さと優しさを称えていたものです。
でも、私たちが1番愛していたのは、女王様の美しい瞳です。
女王様の目を見て、限りない幸せを感じないものはおりませんでした。
私の仕事は羊飼いでした。
こうして私たちは選ばれし者の国に暮らし、その生活が永遠に続くと思っていました。
けれど、ある日、天使がやってくると、近いうちに地上へ向かうように告げられたのです。
それから天使は私たちがどれぐらい役目を果たしたかを一人ひとり調べたのですが、その判定は厳しくて、みんなどこかしら不足があると判断されました。
けれど、2人だけは別でした。
女王様と私です。
天使はお褒めの言葉をくれて、地上へ降りたらそれぞれ1つ願い事を叶えてくれるといいました。
そのとき私はそばにいる女王様を見て、地上で人間になっても同じように美しい瞳をしていてほしいと願ったのです。
天使がうなずくと、女王様の方を向きました。
女王様はこちらを見て微笑むと、私の1番の願いが叶うようにと望まれました」
この本の前作はベストセラーです。
経済学の本でベストセラーはまれなようです。