『 2030年 ジャック・アタリの未来予測』(ジャック・アタリ、訳 林 昌宏、2017)
(*)は私です。
<以下一部抜粋・要約>
Introduction
次世代のことを思い最悪の事態の到来を阻止して明るい未来を構築するために活動する人々もたくさんいる。
善が悪に打ち勝つのは、もはや手遅れなのか。
私はそうは思わない。
しかし、2030年まで手をこまねいていれば、時すでに遅しだ。
自分自身および他者のために、全員がすぐにでも行動を起こさなければならないのだ。
われわれは世界の現実をきちんと把握し、自分たちの生活を早急に見直す必要がある。
救世主の登場と集団的な救済の間には密接な関係があるが、これらを期待しても無駄である。
診断がついたのなら、たとえ困難でも、そして権力の正体を暴くことがこれまでのように容易でなくても、行動すべきだ。
何を差し置いても自分自身の人生を大切にすることだ。
自分の人生を決定するのは他者だなどと考えてはいけない。
自分は唯一無二のつかの間の存在であることを意識するのだ。
自分の幸福は他者の幸福に左右されると肝に銘じてほしい。
より一般的に言えば、自分の幸福は、世の中のあり方と行方に依存するのである。
そして自分自身および他者のために行動する勇気を、他者の幸福から導きだすのだ。
世界の行方は、各自が自分自身になれるかどうかにかかっているのである。
憤懣が世界を覆い尽くす
自分の人生に意義を持たせるつもりなら、そして余生を楽しむだけの暮らしに甘んじるつもりがないのなら、世界を理解すべきだ。
まずは世界の現状を把握する必要がある。
順調に見える世界
- 向上し続ける生活水準
- 続伸する平均寿命
- 減少する極貧
- コスト削減の推進
- 新たなコミュニケーション手段の普及
- 農業、教育、医療の分野におけるイノベーション
- 技術進歩によって減る苦役
- 企業組織の大改革
- 共有経済[シェアリングエコノミー]の発展
- 協働と利他主義の推進
- 強化される民主主義
- パクス・アメリカーナは現在
- 環境問題に対する意識の高まり
- 人類の団結
- 国際法の支配強化
- 暴力の減少
世界では多くの重要なことが、悲惨な状態になりつつある
- 高齢化する世界人口
- 医療サービスの乏しい地域での人口爆発
- 移民の恵まれない境遇
- 地球環境の悪化
- 気候変動が世界に及ぼす悪影響
- 農業の暗い未来
- 低迷する経済成長
- 加速する富の偏在
- 貧困化する先進国の中産階級
- はびこり続ける極貧
- 破綻寸前の教育システム
- 破綻寸前の医療システム
- 脆弱な国際金融システム
- 膨張し続け、制御不能に陥る公的債務
- 債務削減の窮余の策:マイナス金利の適用
- 知的所有権の侵害
- 失われる報道の自由
- 民主主義の後退
- 国家を牛耳る大企業
- 吹き荒れる保護主義の嵐
- 超大国アメリカの危うい経済成長
- 不透明な中国の経済成長
- 政治力のないヨーロッパ
- 頭角を徐々に表すロシアやインド
- 能力不足の国際機関
- 社会と家族の崩壊
- カルトと原理主義者の台頭
- 勢力を伸ばすカルト集団や犯罪組織などの非国家組織
- 地政学的戦略の混乱と暴力の再燃
解説
諸悪の根源は何か。
私はマネー自体が暴力の要因だとは思わない。
次に清貧や無欲を賞賛すれば調和のある世界になるという考えに、私は納得しない。
我々の社会に精神性が喪失しているからではない。また、文明の衝突が起きたのでもない、それらのおおざっぱな説明は意味をなさないのである。
私の感覚では、古今東西、社会秩序は生者が死に与える意義に基づいてきたといえる。
どの社会でも太古から死を耐え難くないものにしようとしてきたのである。
特に権力者たちのために儀式を行い、生贄を捧げ、そのための財源を確保してきた。
(※間)
社会では、自由は不安定な生活と裏切りを生み出し、公益は消え失せた。
そうした社会の力学により、生と死に対するこれまでにない関係が模索されるようになった。
すなわち宗教への回帰である。
したがって、この弁証法を起点にすれば、先ほど述べた現状を解明でき、そこから未来を予測できるだろう。
- 現在までのところ政治と経済の自由に基づく社会組織は世界で最も優れた制度だった
- しかしながら今日このシステムは機能不全であり世界は奈落の底に突き落とされる寸前である
- 今日、市場はグローバル化され、法の支配のない状態にある
- 国内に閉じこもる民主主義はますます空虚になり、民主主義が現実に対して及ぼす影響力が減る一方である
- 袋小路に陥り、怒りが爆発する
- 自由を断念することなく[大惨事]を回避するための2つの解決策
- 1つ目は市場が解決してくれると期待し続けることだ。
- 2つ目は人類の存在意義を維持することである。
それは未来の不死テクノロジーに頼ることではない。
世界は、エコロジー、経済、公衆衛生、政治など、あらゆる側面において相互依存を強めている。
よって他者の失敗で利益を得るものは誰もいないと悟ることが重要である。
人類のサバイバルのカギとなるのは利他主義なのだ。
まず、現世代と将来世代の政治及び経済の権利を保障する民主的かつ地球規模の法の支配を早急に確立すべきである。
そのとき、自由を束縛する物質的でなく論理的な法則として唯一機能するのが利他主義であることを忘れてはならない。
世の中に利他主義を根付かせるには、全員が高貴に暮らさなければならない。
つまり、自己の利益のために最大限に利他的に振る舞うのだ。
このようにすれば全員の利益のために自己実現を図ることができる。
ポジティブな社会の構築を目指す多くの人々が、この解決策に則って行動している。
今日、より良い世界を築こうとする希望の輝きがある。
彼らにそのための時間を与えようではないか。
(※第4章では「明るい未来」と題して個人、世界とフランスに具体案を示しています。)
私(チキハ)の感想です。
世界の現状でとても驚いたことがありました。
アフリカ人口の36%の人々には水飲み場がない、ということ。
アメリカでは文字の読み書きができない人々が人口の10%、であること。
今の日本を見渡し、なんで日本人を不幸だと思うのかと、かかっていたモヤがすーっとひいていくように感じました。
世界の現状を知ることで見方が変わったのです。
2030年までに、人類史上稀に見る大型のテクノロジー・イノベーションが続出する。
書かれていた中では、3Dプリンターの導入についてがイメージしやすかったです。
産業界では、3Dプリンター導入により、1部の製造現場は先進国に回帰し、一般家庭ではカスタマイズしたモノがつくられるようになる。
例えば日曜大工に必要な部品や道具、衣服、食器、家具、楽器、工芸品、さまざまな人工臓器などだ。
私はしばしその幸福感に酔いました。
しかし著者はこう語ります。
惨事の合間に俗物的な野心から生じる自己愛の実現に、私的でちっぽけな幸福を探し出すだけで満足するのなら、われわれは滅亡するだろう。
あるいは、俗っぽい喜びや安っぽい自己実現の蓄積に幸福を見つけ出そうとしても、われわれは滅亡するだろう。
そして自分自身や他者に対して真摯に生きない場合も、結果は同じだろう。
「自分自身が出来る限り高貴な生活を送りながら世界を救う」
この奇妙な文句は、自己と他者の利益の見事な一致であり、いかなる時代であっても、どれほど大きな危機に直面しても、適用可能な革新的な寸言である。
アタリを素晴らしいと思うのは、現状を把握し、未来を予測をし、さらに対処法まで明示するところにあると思います。
それは世界、国家、個人にあたえられます。
私は今までの自分では考えられないことをしました。世界の平和を願ってみたのです。
そのとき、心が軽くなるような気がしました。
それは感覚です。
自分の知っていることが増えたから、そう感じられるようになったのかもしれないと思いました。