『世界の賢人と語る「資本主義の先」』(井出壮平、2024)
〈以下1部要約・抜粋〉
はじめに
本書は「資本主義」を人々のために抜本的に作り替える、具体的な方策について、約20年間、経済記者として活動してきた経験を踏まえて探る試みである。
資本主義を経済の基本ソフト(OS)のようなものだとするなら、少なくとも抜本的にアップデートする必要性は明らかだ。
資本主義の定義とは
資本主義という用語を最初に用いたのは、フランス人の社会主義者で歴史家ジャーナリストでもあったルイ・ブランという人物で、1850年だったとされる。
特定の名前を持たないまま誕生し、進化、普及していった経済のあり方に、後から名前がついつけられ、それが定着したわけだが、定義の仕方は、資本主義のどの部分に注目するかによって大きく変わってくる。
自己増殖プログラム
では、本書では何を指して資本主義と呼ぶのか。
ここでは、資本が利益を生み、その利益が再投資されて、さらに大きな利益を生むという拡大再生産のプロセスに注目して議論を進めたいと思う。
すなわち、パン屋が自らのオーブンで焼いたパンを売って儲けても、それ自体は資本主義的生産様式とは言えない。
パンを売って得た利益を、より大きなオーブンを買うなどして、生産能力を増強することに充てたとき、初めて、資本主義の歯車が回り始める。
こう考えると、資本主義と経済成長が切っても切り離せない関係であることがよくわかる。
人類の歴史上、16世紀ごろまでは現代で言うところの国内総生産(GDP)の世界全体の合計は、ずっと0成長(=水準にすると不変)の定常社会だったとされる。
ところが、産業革命以後、中でも20世紀に入ってからは、世界経済は爆発的な成長曲線を描いていく。
もちろん、それをもたらしたのは、先程述べたような意味での資本主義の普及である。
探る「第3の道」
格差を広げ、環境破壊を止められない資本主義を修正する様々な試みは、抜本的な変化をもたらすには至っていない。
資本主義でも社会主義でもない「第3の道」は、テクノロジーによって可能になるかもしれない。
地域通貨
ゲーム開発などを手がけるカヤックの社長柳澤大輔は、地域通貨にその可能性を見出す。
同社が2019年に「まちのコイン」事業として実証実験を始めた電子マネーは、単なる地域限定の商品券ではなく、お金では測れないものを測る「別の価値の尺度」を提供することを目標に掲げる。
例えば、海岸のゴミ拾いに参加すると、コインがもらえ、それを使って市内で収穫された規格外の野菜を買える。
目指すのは、流通量が増えるほど、地域の人間関係が豊かになっていくような新しい「お金」だ。
「まちのコイン」の利用者は鎌倉市だけで1万人を超え、全国20自治体以上で展開するなど、普及への手ごたえを感じている。
1人1株
ヤニス・バルファキスが書いた『クソったれ資本主義が倒れたあとの、もう一つの世界』は異色のSF小説だ。
バルファキスが描く世界では、人は皆、生まれると同時に中央銀行に口座が開設され、国から一定額が「相続」として付与される。
これに加えて、ベーシックインカムとして毎月定額が振り込まれるほか、働いていれば給料やボーナスがあり、人はこれらを元手に起業したり、企業に資金を貸し付けたりできる。
さらに、すべての土地は、公有化された上で、公営住宅や民間非営利団体が入る社会ゾーンと、企業のオフィスビルや通常の賃貸住宅が入る商業ゾーンに分けられる。
商業ゾーンから上がる収益で社会ゾーンを整備する仕組みとなっている。
AIとベーシックインカム
全人口に対し、希望すれば、誰にでも暗号資産(仮想通貨)を無料配布する--。
地球上のそんな野心的なプロジェクトがアメリカ発で始まっている。
しかも、仕掛け人は今、世界で最も注目される人物の1人、オープンAIの最高経営責任者、サム・アルトマンだ。
--将来、テクノロジーが伝統的な職業を消滅させ続け、巨額の新しい富が生み出される過程で、いずれかの時点で、全国規模でベーシックインカム的な制度が登場する事はほぼ間違いないだろう。
ならば、今のうちに、理論的な問題に答えを出しておいたほうがいい。
暗号資産との融合
2021年に入り、構想はさらにSF的になる。
UBIで配る「お金」を、法定通貨ではなく、アルトマンらが立ち上げた暗号資産「ワールドコイン」とする計画が公表されたのだ。
それによると、ワールドコインの運営を担うワールドコイン財団や関連企業は、「オーブ」と呼ばれる球体状の網膜スキャナを既に開発しており、世界中に配備を始めている。
ワールドコインの受け取りを希望する人は、「オーブ・オペレーター」と呼ばれる登録係に連絡を取り、オーブを使って直接、瞳をスキャンしてもらわなければならない。
オーブは現在、日本国内では東京・渋谷などに登録拠点があり、その数は増え続けている。
その先に待つものは
AIが雇用を奪っていくのは避けられない以上、AIが生み出す莫大な利益を使って、誰もが最低限以上の暮らしをできるようなUBI制度の確立を目指し、手始めとして暗号資産を希望者全員に配る。
この構想を聞いて、あなたは希望のある話だと思うだろうか。
それとも1部の企業や経営者が社会を支配するディストピア(暗黒世界)的なものをそこに感じてしまうだろうか。
現状の筆者の直感的な反応は後者である。
まず、暗号資産そのものの成り立ちとして、法定通貨よりもさらに価値の裏付けが乏しいため、新たに暗号資産を発行する主体は、どんなに広く薄くでも、とにかく利用者を増やし、流通させる必要がある。
つまり法定通貨はまだ、軍隊や警察、徴税機関という強制力を持つ政府が後立てになっているが、暗号資産に関しては、そうしたものもない。
価値があると皆が思うから、価値が出るという、最も純粋な信用で成り立っている。
ベーシックインカム云々というのは、普及のための単なるストーリーである可能性が、どうしても否定しきれない。
言うまでもなく、普及すれば最も儲かるのは、発行主体である。
仮にAIが多くの雇用を奪い、その分の富が限られた少人数にどんどんたまっていくことがあるとすれば、それこそそのときは政府の出番である。
政府が税による所得再分配を使って、皆に一定の生活を保証しなければならない。いくら政府が信用ならないからといって、民間の団体や企業が所得再分配を行うというのは、それ自体が民主主義や法治主義の否定につながりかねない危うさを感じてしまう。
ベーシックインカムは、新自由主義的な人々の1部からも、年金や生活保護などの社会保障を置き換えるという文脈で支持されており、既存のセーフティーネットの縮小にも使われかねない。
竹中平蔵も支持者の1人である。
私(チキハ)の感想です。
日本は世界に先駆けて、行き過ぎた経済発展の崩落を体験した先駆者だとよく聞く。
日本人は、モノづくりがうまかったのだ。
先人たちに感謝である。
自給自足の日本人の動画を見るが、パソコンは必須らしい。
多様な生き方を選択できる社会になってきているのだ。
資本主義が、初めから明確に意図されてできたものではなかったように、私たちはもう違う経済に移行しているのかもしれない。
